0と1ではなく、連続して変わる大きさの信号を扱うアナログ半導体の役割を説明する。現実の世界とデジタルの計算をつなぐ変換、小さな信号を大きくする増幅、電源の電圧を整える回路と、アナログ回路を作る難しさを扱う。
変換と増幅(模式図)
- AD変換測る間隔が短く、段階が多いほど、元の信号に近くなる
- 増幅形を保ったまま、大きさだけを大きくする
図:左は、AD変換。なめらかに変わる信号(線)を決まった間隔で測り、それぞれを決まった段階(点線)のどれかに当てはめる(四角)。段階の番号が0と1の並びになる。右は、増幅。小さな信号を、形を保ったまま大きくする。目盛りのない模式図、本サイトで作成現実の世界は、連続して変わる
ここまでのページでは、0と1の二つの状態で情報を扱うデジタルの回路を見てきた。ところが、私たちの周りの世界は、0と1でできているわけではない。
音の大きさ、光の明るさ、温度、圧力、電池の電圧などは、とびとびではなく、なめらかに連続して変わる。このように、連続して変わる大きさで表される信号を「アナログ信号」と呼ぶ。そして、アナログ信号をそのまま扱う半導体を「アナログ半導体」と呼ぶ。
スマートフォンでも、マイクで拾った声、カメラで受けた光、電池の電圧、電波で届いた信号は、どれも最初はアナログ信号である。計算をするプロセッサーがその情報を扱うには、アナログの世界とデジタルの世界をつなぐ部品が欠かせない。
アナログとデジタルをつなぐ:変換
アナログ信号をデジタルの0と1の並びに変える回路を「AD変換器」と呼ぶ。ADは、アナログからデジタルへ、という意味である。
AD変換器は、決まった時間の間隔ごとに、信号の大きさを測る。そして、測った大きさを、決まった数の段階のどれに当たるかで表し、その段階の番号を0と1の並びにする。測る間隔が短いほど、速く変わる信号まで正しくとらえられる。段階の数が多いほど、細かい違いまで表せる。
反対に、デジタルの0と1の並びを、アナログ信号に戻す回路を「DA変換器」と呼ぶ。デジタルで保存した音楽を、スピーカーを鳴らす電気の信号に戻すのは、DA変換器の働きである。
小さな信号を大きくする:増幅
センサーやマイク、アンテナから届く信号は、とても小さいことが多い。そのままでは、変換したり、ほかの回路で扱ったりしにくい。そこで、信号の形を保ったまま、大きさだけを大きくする。これを「増幅」と呼び、そのための回路を「増幅器」と呼ぶ。
増幅器の中でも、トランジスタは中心の部品である。分野「デバイス」で学んだMOSFETは、ゲートの電圧で、流れる電気の量を変えられた。デジタルの回路では、これを入と切の二つの状態だけで使った。アナログの回路では、入と切の間の、ゲートの電圧に応じて電気の量がなめらかに変わる範囲を使う。小さなゲートの電圧の変化で、大きな電気の変化を作れるので、信号を大きくできる。
増幅器には、信号を大きくするだけでなく、ほしい信号だけを取り出し、余分な雑音を減らすことも求められる。
電源を整える:電源の回路
電子機器の中では、多くの部品が、それぞれ決まった電圧の電源を必要とする。ところが、電池の電圧は、使ううちに少しずつ下がる。また、部品ごとに必要な電圧は違う。
そこで、電池などから受け取った電圧を、それぞれの部品に合った一定の電圧に変えて届ける回路が使われる。分野「デバイス」のパワー半導体のページで学んだ、スイッチを速く入切して電圧を変える考え方は、機器の中の小さな電源の回路でも使われている。
使わない部品の電源を細かく切ったり、必要なときだけ電圧を上げたりして、電池を長持ちさせる働きも、こうした電源の回路が受け持つ。電源の管理に特化したチップは、多くの電子機器に入っている。
アナログ回路を作る難しさ
デジタルの回路では、電圧が高いか低いかだけを見分ければよい。多少の揺れがあっても、0と1を取り違えなければ、正しく動く。
アナログの回路では、そうはいかない。信号の大きさそのものが情報なので、わずかな揺れや雑音、トランジスタ一つ一つのわずかな性質の違いが、そのまま結果に表れる。温度が変わってトランジスタの性質が変わると、増幅の度合いも変わってしまう。
そのため、アナログ回路の設計では、こうした違いや変化の影響を打ち消す工夫が必要になる。設計を自動で行う道具の助けを借りにくい部分も多く、設計する人の経験が生きる分野である。
また、アナログ回路では、トランジスタを小さくすれば性能が上がるとは限らない。高い電圧を扱う回路や、雑音を抑えたい回路では、あえて大きめのトランジスタを使うこともある。そのため、アナログ半導体では、微細化を進めた製造の技術だけでなく、前の世代の製造の技術も広く使われている。
デジタルとアナログを一つのチップに
アナログとデジタルの回路を、一つのチップに作り込むこともある。変換器、増幅器、電源の回路と、計算をする回路を一つにまとめれば、部品の数を減らし、機器を小さくできる。
ただし、デジタルの回路が切り替わるときに出る雑音が、近くのアナログの回路に入り込まないように、置き方や配線を工夫する必要がある。一方で、性質の違う回路を別々のチップで作り、一つのパッケージにまとめる方法もある。
このページのまとめ
アナログ半導体は、連続して変わる大きさの信号を扱う。AD変換器はアナログ信号を0と1の並びに、DA変換器はその反対に変える。増幅器は、トランジスタの電気の量がなめらかに変わる範囲を使って、小さな信号を大きくする。電源の回路は、部品ごとに合った一定の電圧を届ける。アナログ回路は、わずかな揺れや性質の違いが結果に表れるので、それを打ち消す設計の工夫が要る。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
AD変換器の働きとして、正しいものはどれか。
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答え:2. アナログ信号の大きさを決まった間隔で測り、0と1の並びに変える
AD変換器は、決まった時間の間隔ごとに信号の大きさを測り、段階の番号を0と1の並びにする。反対に、0と1の並びをアナログ信号に戻すのはDA変換器である。
問2
アナログの増幅器で、トランジスタのどのような性質を使うか。
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答え:2. 入と切の間で、ゲートの電圧に応じて流れる電気の量がなめらかに変わる性質
デジタルの回路では入と切だけを使うが、アナログの増幅器では、ゲートの電圧に応じて電気の量がなめらかに変わる範囲を使い、小さな電圧の変化で大きな電気の変化を作る。
問3
アナログ回路の設計が難しい理由として、正しいものはどれか。
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答え:2. 信号の大きさそのものが情報なので、わずかな揺れや雑音、トランジスタの性質の違いが結果に表れるから
アナログの回路では、信号の大きさそのものが情報である。そのため、わずかな揺れや、温度による性質の変化などの影響を打ち消す工夫が必要になる。