半導体の中で電子と正孔が動く二つの仕組み、電界に押されて動く「ドリフト」と、濃いところから薄いところへ広がる「拡散」を説明する。動きやすさを表す移動度、二つの動きが釣り合うpn接合、電子と正孔が消える再結合も扱う。
ドリフトと拡散(模式図)
- ドリフト電界に押されて動く
- 拡散濃いところから薄いところへ
図:左はドリフト。両端に電圧をかけると中に電界ができ、電子(黒い丸)は電界と逆の向きに、正孔(縁取りの丸)は電界と同じ向きに動く。どちらも同じ向きの電流になる。右は拡散。電子が濃いところ(左)から、薄いところ(右)へ、電界がなくても広がる。模式図、本サイトで作成二つの動き方
ここまでのページで、半導体の中で電気を運ぶのは、マイナスの電子と、プラスに振る舞う正孔であることと、pn接合が電気を一方向にだけ流すことを学んだ。このページでは、電子と正孔が「どのように動くのか」を見て、pn接合の働きを動き方から見直す。
電子と正孔の動き方には、大きく分けて二つある。一つは、電圧をかけたときに押されて動く「ドリフト」である。もう一つは、電圧をかけなくても、濃いところから薄いところへ広がっていく「拡散」である。トランジスタやダイオード、太陽電池の働きは、この二つの組み合わせで説明できる。
ドリフト:電界に押されて動く
半導体の両端に電圧をかけると、中に「電界」ができる。電界は、電気を帯びた粒を押す力の場である。坂道に置いた玉が転がり落ちるように、電子と正孔は電界に押されて動き出す。
電子はマイナス、正孔はプラスの電気を持つので、押される向きは反対になる。電子は電界と逆の向きに、正孔は電界と同じ向きに動く。ところが、電流の向きで見ると、どちらも同じ向きの電流になる。マイナスが左へ動くことと、プラスが右へ動くことは、電流としては同じだからである。
電子と正孔は、電界に押されて限りなく速くなるわけではない。結晶の中を進むうちに、振動している原子や、混ぜた元素の原子にぶつかって、向きを変えられる。押されては、ぶつかることをくり返すため、平均するとほぼ一定の速さで進む。人混みの中を、押されながら歩く様子に似ている。
移動度:動きやすさの目安
同じ強さの電界で、どれだけ速く進めるかを表す量を「移動度」と呼ぶ。移動度が大きい材料ほど、電子や正孔が速く動き、同じ電圧で大きな電流が流れる。速く切り替わるトランジスタを作るには、移動度の大きいことが有利である。
移動度は、材料によって違う。同じ材料の中でも、電子と正孔で違い、シリコンでは電子のほうが正孔より動きやすい。CMOS回路で、正孔で動くトランジスタを電子で動くものより大きめに作ることがあるのは、この差を補うためである。
移動度は、温度や混ぜた元素の量でも変わる。温度が上がると原子の振動が激しくなり、ぶつかる回数が増えて移動度は下がる。混ぜた元素が多いと、その原子にぶつかる回数が増え、やはり移動度は下がる。
拡散:濃いところから薄いところへ
水にインクを一滴たらすと、何もしなくても、インクはだんだん広がって全体が薄く色づく。粒が勝手な向きに動き回るうちに、濃いところから薄いところへ広がっていくためである。この現象を「拡散」と呼ぶ。
半導体の中の電子と正孔も、同じように拡散する。ある場所に電子がたくさん集まっていると、電界がなくても、電子の少ない場所へ広がっていく。濃さの差が大きいほど、広がる流れは大きくなる。拡散で動く電子や正孔も、電気を運ぶので、電流になる。製造の工程で、混ぜた元素の原子を熱でウェーハの中に広げるときも、同じ拡散の考え方が使われる。
二つが釣り合うとき:pn接合
ドリフトと拡散が両方はたらく代表的な場所が、前のページで学んだpn接合である。
つないだ直後、n型の側に多い電子はp型の側へ、p型の側に多い正孔はn型の側へ、拡散で流れ込む。すると、境目の近くに、電子や正孔のいない領域(空乏層)ができ、そこに電界が生まれる。この電界は、拡散してきた電子と正孔を押し戻す向きにはたらく。
やがて、拡散で流れ込もうとする動きと、電界によるドリフトで押し戻す動きが釣り合い、全体としての電流はゼロになる。このとき境目にできている電位の差が、pn接合の性質を決める。外から電圧をかけてこの釣り合いを崩すと、一方の向きには電流が流れ、反対の向きにはほとんど流れない。これがダイオードの整流の仕組みである。
再結合:電子と正孔が出会って消える
電子と正孔は、出会うと結びついて、ともに消える。これを「再結合」と呼ぶ。このとき、電子が持っていたエネルギーは、熱や光として外に出る。発光ダイオードは、再結合のときに出る光を利用している。
ある場所で生まれた電子や正孔が、再結合で消えるまでに、平均してどれだけの時間生きられるかを「寿命」と呼ぶ。寿命が長いほど、拡散でより遠くまで届く。光を電気に変える太陽電池やイメージセンサーでは、光で生まれた電子と正孔が消える前に集められるかどうかが、性能を左右する。結晶の中に欠陥が多いと、そこで再結合が起こりやすくなり、寿命は短くなる。
このページのまとめ
電子と正孔は、電界に押されて動くドリフトと、濃いところから薄いところへ広がる拡散の二つで動く。動きやすさは移動度で表され、材料、温度、混ぜた元素の量で変わる。pn接合では二つの動きが釣り合い、その釣り合いを外から崩すことで、ダイオードの働きが生まれる。電子と正孔は出会うと再結合して消え、その寿命が、光を扱う部品の性能に関わる。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
電圧をかけていなくても、電子が濃いところから薄いところへ広がる動きを何と呼ぶか。
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答え:2. 拡散
濃さの差によって、濃いところから薄いところへ広がる動きを拡散と呼ぶ。電界に押されて動くのはドリフトである。
問2
温度が上がると、移動度はどうなるか。
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答え:1. 原子の振動が激しくなり、ぶつかる回数が増えて下がる
温度が上がると原子の振動が激しくなり、電子や正孔がぶつかる回数が増える。そのため、移動度は下がる。
問3
電圧をかけていないpn接合で、全体の電流がゼロになっている理由はどれか。
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答え:2. 拡散で流れ込む動きと、電界によるドリフトで押し戻す動きが釣り合っているため
境目では、拡散で流れ込もうとする動きと、空乏層の電界によるドリフトで押し戻す動きが釣り合っている。そのため、全体としての電流はゼロになる。