ドリフトと拡散:キャリアが動く二つの理由

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 式
  2. 式のどこを見るか
  3. 数値例
  4. 基礎編のどこに効くか
  5. 次に読む
  6. 理解度チェック
  7. 出典

キャリアの電流が、電界によるドリフトと、濃度の差による拡散の二つで決まることを、式から読む。移動度と拡散係数がアインシュタインの関係で結ばれることを、シリコンの電子と正孔の値で確かめる。

電界で動く速さと、拡散の速さは、移動度で結ばれる

  1. 00.511.505001000電界(V/cm)速さ(10⁶ cm/s)電子正孔ドリフトの速さ移動度が傾きにあたる
  2. 電子36正孔12拡散係数(cm²/s)拡散係数電子のほうが速い
図:左は、電界とドリフトの速さの関係(v = μE。電界が強くなって速さが頭打ちになる領域は含めない)。右は、アインシュタインの関係 D = (kT/q)μ から求めた300 Kの拡散係数。移動度は Tishk International University のスライド、計算は本サイト

式

J=qnμnE+qDndndx

J は電子による電流密度、q は電気素量、n は電子の濃度、E は電界、x は位置である[1]。μn は電子の移動度で、電界1の単位あたりの速さの比例定数である。Dn は拡散係数である。

第1項がドリフト(電界で動く電流)、第2項が拡散(濃度の高いほうから低いほうへ動く電流)である。

移動度と拡散係数は、アインシュタインの関係で結ばれる[1]。

Dn=kTqμn

式のどこを見るか

見るのは、電流が二つの項の和であることである。電界がなければ第1項は0になり、濃度が一様なら第2項が0になる。pn接合では、濃度の差が大きいため、拡散の項が大きい。

ドリフトの速さは、v=μE である[1]。移動度が大きいほど、同じ電界で速く動く。電界が強くなると、速さは一定の値に近づき、この比例は成り立たなくなる[1]。

アインシュタインの関係は、移動度が大きい材料は、拡散も速いことを示す。比例定数 kT/q は熱電圧で、熱のエネルギーを電圧に直した量である。

導電率は、σ=qnμn+qpμp で、その逆数が抵抗率である[1]。電子と正孔の両方が、電流に寄与する。

数値例

300 Kの熱電圧は、ボルツマン定数と電気素量[2]から、約25.9 mV である(本サイトで計算)。

シリコンの移動度は、電子が1,400 cm2/(V·s)、正孔が470 cm2/(V·s) である[1]。アインシュタインの関係から、拡散係数は、電子が約36 cm2/s、正孔が約12 cm2/s になる(本サイトで計算)。

電界が 103 V/cm のとき、電子のドリフトの速さは 1.4×106 cm/s である[1]。1 μm(10−4 cm)進むのにかかる時間は約71 ps(ピコ秒)である(本サイトで計算)。

電子の濃度が 1016 cm−3 のとき、導電率は約2.2 S/cm、抵抗率は約0.45 Ω·cm である。正孔なら約0.75 S/cm、約1.3 Ω·cm である(本サイトで計算)。ただし、移動度は不純物の濃度でも変わるため、この計算は、上の移動度の値をそのまま使った目安である。

基礎編のどこに効くか

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

移動度が大きい材料では、同じ電界で、キャリアの速さはどうなるか。

答えと解説を見る

答え:2. 速くなる

ドリフトの速さは v = μE である。移動度 μ が大きいほど、同じ電界 E で速く動く。

問2

拡散係数と移動度を結ぶアインシュタインの関係の、比例定数はどれか。

答えと解説を見る

答え:1. 熱電圧 kT/q

D = (kT/q)μ である。比例定数 kT/q は熱電圧で、300 Kで約25.9 mV である。

出典

  1. Semiconductor Chapter 2 スライド(キャリアの輸送)(外部サイト)Tishk International University(物理学科)確認日:
  2. CODATA Recommended Values of the Fundamental Physical Constants: 2018(NIST SP 961)(外部サイト)米国国立標準技術研究所(NIST)確認日: