電波や音などの信号を、デジタルの値にして計算で整えるデジタル信号処理を説明する。信号を計算で扱う利点、フィルターの計算、雑音の除去、誤りを見つけて直す仕組み、専用の回路と半導体との関係を扱う。
信号を計算で整える(模式図)
- 計算で整える雑音を減らして形を整える
- 誤りの訂正確かめる情報で直す
図:左は、デジタル信号処理の流れ。なめらかな信号を数字の並びにして、計算で雑音を減らし、ほしい形に整える。右は、誤りの訂正。送る側が確かめるための情報を付け、受ける側は、それを使って誤りを見つけて直す。目盛りのない模式図、本サイトで作成信号を、数字の並びにして扱う
電波や音の信号は、時間とともになめらかに変わる。この信号を、決まった間隔で測り、数字の並びに直す。これがAD変換である。数字になった信号は、計算で自由に扱える。
数字の信号を、計算で加工して、ほしい形に整える技術を、デジタル信号処理と呼ぶ。スマートフォンの通話、音楽の再生、デジタルカメラ、レーダー、補聴器など、信号を扱う機器の中で広く使われている。
計算で扱う利点
信号を、アナログの回路だけで扱う方法もある。しかし、デジタルで計算すると、いくつかの利点がある。
一つは、同じ計算が、いつも同じ結果になることである。アナログの部品は、温度や経年で性質が変わるが、計算は変わらない。二つめは、計算の中身を変えるだけで、働きを変えられることである。部品を作り直さずに、フィルターの特性や通信の方式を切り替えられる。三つめは、半導体の微細化の利益を受けられることである。計算の回路は、微細化すると、小さく、速く、少ない電力で作れる。
フィルターを計算で作る
通信用の半導体のページで学んだフィルターは、ほしい周波数だけを通す部品であった。デジタルの世界でも、同じ働きを計算で作れる。
数字の並びから、決まった数の数字を取り出し、それぞれに決まった重みをかけて足し合わせる。この計算を、少しずつずらしながら繰り返すと、特定の周波数の成分だけを取り出したり、取り除いたりできる。重みの値を変えれば、通す周波数を変えられる。
この計算は、掛け算と足し算の繰り返しである。したがって、掛け算と足し算を速く行う回路があれば、効率よく実行できる。
雑音を減らす
受けた信号には、雑音が混ざっている。雑音を完全には取り除けないが、減らす方法がある。信号と雑音では、周波数の分布や、時間による変わり方が違う。この違いを利用して、雑音が目立つ成分を弱める。
イヤホンの雑音を打ち消す機能も、デジタル信号処理で実現される。マイクで周りの音を拾い、それを打ち消す逆の音を計算して作り、スピーカーから出す。短い時間で計算を終える必要があり、計算の速さが求められる。
誤りを見つけて直す
通信では、信号が途中で乱れ、受けた値が送った値と違うことがある。この誤りに対処するため、送る側が、データに、確かめるための情報を付け加える。受ける側は、その情報を使って、誤りを見つけ、一部は直す。
直せる誤りの量は、付け加える情報が多いほど増える。しかし、付け加える情報が多いと、運べる本来のデータの量は減る。通信の状況に応じて、量のつり合いを選ぶ。誤りを直す計算は複雑で、専用の回路で行うことが多い。
専用の回路か、プログラムか
デジタル信号処理は、二つの方法で実行できる。一つは、決まった計算に特化した専用の回路で実行する方法である。速く、少ない電力で実行できるが、決まった計算にしか使えない。もう一つは、プログラムで動く回路で実行する方法である。計算の内容を変えやすいが、同じ計算でも、専用の回路より電力を使いやすい。
信号処理に向いた、掛け算と足し算を並行して多数行える回路もある。スマートフォンのチップには、通信用、音声用、画像用など、目的に応じた処理の回路がいくつも入っている。
AIとの関係
近年は、信号の特徴を取り出す処理に、AIの計算が使われる場面が増えている。AIの計算も、大量の掛け算と足し算を行う点で、信号処理と共通している。そのため、AI向けの半導体は、信号処理の回路の知識を生かしながら進んでいる。
このページのまとめ
デジタル信号処理は、信号を数字の並びにして、計算で整える技術である。同じ結果が得られ、計算の中身を変えやすく、微細化の利益を受けられる。フィルターの計算は、重みをかけて足し合わせる繰り返しで、雑音の減少や誤りの訂正も計算で行う。専用の回路と、プログラムで動く回路が、目的に応じて使い分けられる。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
デジタル信号処理で、フィルターの働きを計算で作る方法として、正しいものはどれか。
答えと解説を見る
答え:1. 数字の並びに、決まった重みをかけて足し合わせる計算を繰り返す
数字の並びから決まった数を取り出し、重みをかけて足し合わせる計算を、少しずつずらしながら繰り返す。重みを変えると、通す周波数を変えられる。
問2
デジタルで信号を処理する利点として、正しいものはどれか。
答えと解説を見る
答え:1. 計算の中身を変えるだけで、フィルターなどの働きを切り替えられる
デジタルの計算は、いつも同じ結果になる。また、計算の中身を変えるだけで、部品を作り直さずに、働きを切り替えられる。