拡散や酸化など、熱で進む現象の速さを表すアレニウスの式から、温度を100℃上げると速さが何倍になるかを読む。活性化エネルギーの大きさで、温度への敏感さがどう変わるかを、ホウ素の拡散と酸化の値で比べる。
温度が上がると、拡散は指数の形で速くなる
- ホウ素の拡散係数温度とともに、桁で増える
- 1,000℃→1,100℃の増え方Ea が大きいほど、温度に敏感
図:左は、シリコン中のホウ素の拡散係数の温度変化(縦は対数の目盛り。1目盛りで10倍)。右は、1,000℃から1,100℃に上げたときの増え方で、活性化エネルギーが大きいほど増える。係数はワシントン大学の講義資料(Chapter 6、7)、計算は本サイト式
は、熱で進む現象の速さを表す量で、ここでは不純物原子の動きやすさ(拡散係数)である。 は温度によらない定数、 は活性化エネルギー、 はボルツマン定数、 は絶対温度(K)である。
は、原子が一つの位置から次の位置へ動くときに越える壁の高さにあたる。単位には電子ボルト(eV)を使う。
温度を から に変えたときの速さの比は、 が打ち消し合って、次の形になる。
式のどこを見るか
見るのは、指数の中の である。 は熱が原子に与えるエネルギーの目安なので、この値は「壁の高さが、熱の何倍か」を表す。倍数が大きいほど、壁を越える原子は指数関数的に少なくなる。
温度 は分母に入っている。温度が上がると指数の中の値が小さくなり、 は増える。増え方は直線ではなく、指数の形である。
もう一つ見るのは、 が分子に入っていることである。 が大きい現象ほど、同じ温度の上昇に対して、速さがより大きく変わる。熱処理の条件を決めるときは、温度の管理が、 の大きい現象ほど厳しくなる。
この式は、熱で電子が伝導帯に上がる真性キャリア濃度の式と、同じ形をしている。どちらも「壁の高さ ÷ 熱のエネルギー」を指数の中に持つ。
数値例
ボルツマン定数は eV/K である[3]。1,000℃(1,273 K)での は約0.110 eV になる(本サイトで計算)。
シリコン中のホウ素の拡散は、 cm/s、 eV で表される[1]。 は約32で、壁の高さは熱の約32倍である。この条件で を計算すると、1,000℃で約 cm/s になる(本サイトで計算)。
温度を1,000℃から1,100℃に上げると、ホウ素の は約10倍になる。1,000℃から1,010℃への10℃の上昇でも、約1.3倍になる(本サイトで計算)。
活性化エネルギーが小さい現象は、変わり方が小さい。シリコンの酸化で、酸化剤が膜の中を進む速さを表す定数 (ドライ酸化)は、 eV で表される[2]。同じ1,000℃から1,100℃への上昇で、約2.3倍にとどまる(本サイトで計算)。
一方、シリコン原子自身の拡散は eV である[1]。同じ上昇で約24倍になる(本サイトで計算)。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
アレニウスの式で、同じ温度の上昇に対して速さが大きく変わるのは、どの場合か。
答えと解説を見る
答え:1. 活性化エネルギーが大きい現象
温度の変化は指数の中の Ea/kT に入る。Ea が大きいほど、温度が変わったときの指数の変化が大きくなる。D0 は温度の比では打ち消し合う。
問2
温度を上げたとき、拡散係数 D の増え方はどうなるか。
答えと解説を見る
答え:3. 指数関数の形で増える
温度は指数の中の分母にあるため、D は直線ではなく、指数関数の形で増える。