拡散:Dt で決まる、不純物の広がり

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 式
  2. 式のどこを見るか
  3. 数値例
  4. 基礎編のどこに効くか
  5. 次に読む
  6. 理解度チェック
  7. 出典

熱処理でドーパントがどこまで広がるかを、フィックの法則と拡散距離の目安 2√(Dt) から読む。時間を4倍にすると距離は2倍になること、温度の影響が時間より大きいことを、ホウ素とヒ素の値で確かめる。

広がる距離は、時間の平方根で増える

  1. 00.10.20.301234時間(時間)μm拡散距離と時間始めに大きく進み、あとは鈍る
  2. B 1,000℃0.14As 1,000℃0.05B 1,100℃0.45As 1,100℃0.17距離(μm)1時間での距離温度を上げると、約3倍に広がる
図:左は、1,000℃でのホウ素の拡散距離 2√(Dt) と時間の関係(時間を4倍にしても距離は2倍)。右は、1時間の熱処理での距離。係数はワシントン大学の講義資料(Chapter 7)、計算は本サイト

式

J=−D∂C∂x

J は、単位面積を単位時間に通る原子の数(流れ)である。C は不純物の濃度、x は表面からの深さ、D は拡散係数である。マイナスの符号は、濃度の高いほうから低いほうへ流れることを表す。これがフィックの第一法則である。

この法則から、不純物が広がる距離の目安が得られる。

L≈2Dt

L は拡散距離、t は熱を加えた時間である。D の単位は cm2/s なので、Dt の平方根は長さになる。

式のどこを見るか

見るのは、平方根である。距離は時間に比例せず、時間の平方根に比例する。時間を4倍にしても、距離は2倍にしかならない。拡散は、始めの数分で大きく進み、あとは進み方が鈍る。

もう一つは、積 Dt である。広がりを決めるのは、D と t の積だけである。熱処理を何段階かに分けるときは、各段階の Dt を足し合わせて、全体の広がりを見積もる[1]。

D は温度で指数関数的に変わる(「アレニウス則」のページ)。時間は平方根でしか効かないが、温度は指数で効く。そのため、広がりを抑えたいときは、時間を短くするより、温度を下げるほうが効果が大きい。

微細なトランジスタで、熱処理を高温で短時間にするのは、この関係による。時間を短くして Dt を小さくし、ドーパントの位置のずれを抑えている。

数値例

ボルツマン定数は 8.617×10−5 eV/K である[2]。シリコン中の拡散係数は、ホウ素が D0=1.0 cm2/s、Ea=3.5 eV、ヒ素が D0=9.17 cm2/s、Ea=3.99 eV で表される[1]。

これらの値で計算すると、1,000℃でのホウ素の D は約 1.4×10−14 cm2/s、ヒ素は約 1.5×10−15 cm2/s である(本サイトで計算)。

1時間(3,600秒)の熱処理での L=2Dt は、1,000℃でホウ素が約0.14 μm(140 nm)、ヒ素が約0.046 μm(46 nm)になる(本サイトで計算)。同じ時間で、ホウ素のほうがヒ素より約3倍遠くまで広がる。

温度を1,100℃に上げると、1時間でのホウ素の距離は約0.45 μm、1,200℃では約1.2 μmになる(本サイトで計算)。温度を200℃上げると、距離は約9倍になる。

これらは、濃度が低い場合の値である。濃度が高いと D が大きくなることがあるが、本ページでは扱わない。

基礎編のどこに効くか

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

熱処理の時間を4倍にすると、拡散距離の目安 2√(Dt) は何倍になるか。

答えと解説を見る

答え:1. 2倍

距離は時間の平方根に比例する。4倍の平方根は2なので、距離は2倍になる。

問2

不純物の広がりを抑えたいとき、温度と時間のどちらを下げるほうが効果が大きいか。

答えと解説を見る

答え:2. 温度を下げるほうが大きい

D は温度で指数関数的に変わるのに対し、距離は時間の平方根でしか変わらない。温度のほうが、効き方が大きい。

出典

  1. Chapter 7 Diffusion(EE 528 講義資料)(外部サイト)ワシントン大学電気・コンピュータ工学科(Dunham研究室の講義資料)確認日:
  2. CODATA Recommended Values of the Fundamental Physical Constants: 2018(NIST SP 961)(外部サイト)米国国立標準技術研究所(NIST)確認日: