熱処理でドーパントがどこまで広がるかを、フィックの法則と拡散距離の目安 2√(Dt) から読む。時間を4倍にすると距離は2倍になること、温度の影響が時間より大きいことを、ホウ素とヒ素の値で確かめる。
広がる距離は、時間の平方根で増える
- 拡散距離と時間始めに大きく進み、あとは鈍る
- 1時間での距離温度を上げると、約3倍に広がる
図:左は、1,000℃でのホウ素の拡散距離 2√(Dt) と時間の関係(時間を4倍にしても距離は2倍)。右は、1時間の熱処理での距離。係数はワシントン大学の講義資料(Chapter 7)、計算は本サイト式
は、単位面積を単位時間に通る原子の数(流れ)である。 は不純物の濃度、 は表面からの深さ、 は拡散係数である。マイナスの符号は、濃度の高いほうから低いほうへ流れることを表す。これがフィックの第一法則である。
この法則から、不純物が広がる距離の目安が得られる。
は拡散距離、 は熱を加えた時間である。 の単位は cm/s なので、 の平方根は長さになる。
式のどこを見るか
見るのは、平方根である。距離は時間に比例せず、時間の平方根に比例する。時間を4倍にしても、距離は2倍にしかならない。拡散は、始めの数分で大きく進み、あとは進み方が鈍る。
もう一つは、積 である。広がりを決めるのは、 と の積だけである。熱処理を何段階かに分けるときは、各段階の を足し合わせて、全体の広がりを見積もる[1]。
は温度で指数関数的に変わる(「アレニウス則」のページ)。時間は平方根でしか効かないが、温度は指数で効く。そのため、広がりを抑えたいときは、時間を短くするより、温度を下げるほうが効果が大きい。
微細なトランジスタで、熱処理を高温で短時間にするのは、この関係による。時間を短くして を小さくし、ドーパントの位置のずれを抑えている。
数値例
ボルツマン定数は eV/K である[2]。シリコン中の拡散係数は、ホウ素が cm/s、 eV、ヒ素が cm/s、 eV で表される[1]。
これらの値で計算すると、1,000℃でのホウ素の は約 cm/s、ヒ素は約 cm/s である(本サイトで計算)。
1時間(3,600秒)の熱処理での は、1,000℃でホウ素が約0.14 μm(140 nm)、ヒ素が約0.046 μm(46 nm)になる(本サイトで計算)。同じ時間で、ホウ素のほうがヒ素より約3倍遠くまで広がる。
温度を1,100℃に上げると、1時間でのホウ素の距離は約0.45 μm、1,200℃では約1.2 μmになる(本サイトで計算)。温度を200℃上げると、距離は約9倍になる。
これらは、濃度が低い場合の値である。濃度が高いと が大きくなることがあるが、本ページでは扱わない。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
熱処理の時間を4倍にすると、拡散距離の目安 2√(Dt) は何倍になるか。
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答え:1. 2倍
距離は時間の平方根に比例する。4倍の平方根は2なので、距離は2倍になる。
問2
不純物の広がりを抑えたいとき、温度と時間のどちらを下げるほうが効果が大きいか。
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答え:2. 温度を下げるほうが大きい
D は温度で指数関数的に変わるのに対し、距離は時間の平方根でしか変わらない。温度のほうが、効き方が大きい。