酸化の速度:厚くなるほど遅くなる理由

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 式
  2. 式のどこを見るか
  3. 数値例
  4. 基礎編のどこに効くか
  5. 次に読む
  6. 理解度チェック
  7. 出典

シリコンを熱で酸化するときの膜厚の増え方を、ディール・グローブのモデルの式から読む。薄いうちは時間に比例し、厚くなると時間の平方根に比例して遅くなる。ドライ酸化とウェット酸化の速さの違いを、1,000℃の値で比べる。

酸化膜は、厚くなるほど増え方が鈍る

  1. 0250500750100001234時間(時間)nmウェットドライ膜厚と時間線は上に向かうほど寝る
  2. ドライ54 nmウェット383 nm1,000℃で1時間1時間での膜厚ウェットは約7倍厚い
図:左は、1,000℃でのウェット酸化とドライ酸化の膜厚の時間変化(ディール・グローブのモデル、τ=0)。右は、1時間での膜厚。定数はワシントン大学の講義資料(Chapter 6)、計算は本サイト

式

x2+Ax=B(t+τ)

x は酸化膜の厚さ、t は酸化の時間である。τ は、酸化を始める前にすでにあった膜の分を補う時間である。これをディール・グローブのモデルと呼ぶ。

A と B は温度と雰囲気で決まる定数である。B は、酸化剤(酸素や水蒸気)が膜の中を進む速さに関わる。B/A は、シリコンとの境目で反応が進む速さに関わる。それぞれ、アレニウスの式で温度に依存する。

B=C1exp⁡(−E1kT),BA=C2exp⁡(−E2kT)

式のどこを見るか

見るのは、x2 と Ax の大小である。膜が薄いうちは Ax の項が効き、x≈(B/A)(t+τ) になる。膜厚は時間に比例して増える。このとき、速さを決めるのは境目での反応である。

膜が厚くなると x2 の項が効き、x≈Bt になる。膜厚は時間の平方根に比例し、増え方が鈍る。酸化剤が厚い膜の中を通ってシリコンの境目まで届くのに、時間がかかるためである。

厚く作るほど、同じ厚さを足すのに、より長い時間が要る。厚さを2倍にするには、時間が約4倍必要になる。

雰囲気による違いは、B と B/A に現れる。水蒸気を使うウェット酸化は、酸素だけのドライ酸化より、B が大きい。そのため、厚い膜を短時間で作るにはウェット酸化が向く。ドライ酸化は遅く、同じ時間では膜が薄いままである。

数値例

定数は、ドライ酸化で C1=7.72×102 μm2/h、E1=1.23 eV、C2=6.23×106 μm/h、E2=2.0 eV、ウェット酸化(資料の表記は Wet O₂)で C1=2.14×102 μm2/h、E1=0.71 eV、C2=8.95×107 μm/h、E2=2.05 eV で表される[1]。

ボルツマン定数 8.617×10−5 eV/K[2]を使って、1,000℃で計算する。ドライ酸化は B≈0.0104 μm2/h、B/A≈0.075 μm/h、ウェット酸化は B≈0.33 μm2/h、B/A≈0.69 μm/h になる(本サイトで計算)。ウェット酸化の B は、ドライ酸化の約32倍である。

τ=0 として、1時間酸化したときの膜厚を式から求める。ドライ酸化は約0.054 μm(54 nm)、ウェット酸化は約0.38 μm(380 nm)になる(本サイトで計算)。同じ1時間で、ウェット酸化は約7倍厚い。

ウェット酸化で1時間後の厚さ380 nmを、4時間まで延ばすと約0.93 μmになる(本サイトで計算)。時間は4倍だが、厚さは約2.4倍である。

基礎編のどこに効くか

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

酸化膜が十分に厚くなったとき、膜厚は時間とどう関係するか。

答えと解説を見る

答え:2. 時間の平方根に比例する

膜が厚いと x² の項が効き、x はほぼ √(Bt) になる。酸化剤が膜の中を進むのに時間がかかり、増え方が鈍る。

問2

1,000℃で厚い酸化膜を短時間で作りたいとき、向いているのはどちらか。

答えと解説を見る

答え:2. ウェット酸化

ウェット酸化は B が大きく、ドライ酸化の約30倍の値になる。厚い膜を作るには、ウェット酸化のほうが短い時間で済む。

出典

  1. Chapter 6 Thermal Oxidation(EE 528 講義資料)(外部サイト)ワシントン大学電気・コンピュータ工学科(Dunham研究室の講義資料)確認日:
  2. CODATA Recommended Values of the Fundamental Physical Constants: 2018(NIST SP 961)(外部サイト)米国国立標準技術研究所(NIST)確認日: