点欠陥:温度で決まる、結晶の中の空孔の数

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 式
  2. 式のどこを見るか
  3. 数値例
  4. 基礎編のどこに効くか
  5. 次に読む
  6. 理解度チェック
  7. 出典

結晶から原子が1個抜けた空孔などの点欠陥が、温度に応じて平衡でどれだけ存在するかを、形成エネルギーを含む指数の式で読む。高温で数が桁で増えることを、形成エネルギー1 eVの例で確かめる。シリコンの数値が定まっていない点にも触れる。

空孔は、温度が高いほど桁で増える

  1. 点線の丸が、空孔(抜けた原子の席)空孔の模式図原子が1個抜けた席
  2. 10-1610-1210-810-43009001500温度(K)割合空孔の割合(仮定の値)300 Kから1,500 Kで、約13桁増える
図:左は、結晶から原子が1個抜けた空孔の模式図。右は、形成エンタルピーを1 eV、形成エントロピーを0と仮定したときの、空孔の割合の温度変化(縦は対数の目盛り)。実際の金属やシリコンの値ではなく、式の読み方を確かめる計算で、本サイトで計算した

式

cV=exp⁡(SFk)exp⁡(−HFkT)

cV は、結晶の中で原子の席のうち空孔になっている割合である。空孔は、原子が1個抜けて空いた席で、点欠陥の一種である。HF は空孔を1個作るのに必要なエネルギー(形成エンタルピー)、SF は形成エントロピー、k はボルツマン定数、T は絶対温度である[1]。

SF は、空孔の周りで原子の振動が変わることによる項である。この項は、数を一定の倍数だけ変え、温度による変わり方は、第2の指数が決める。

式のどこを見るか

見るのは、第2の指数 exp⁡(−HF/kT) である。形はアレニウスの式と同じで、HF が壁の高さの役目をする。温度が上がると、空孔の割合は指数の形で増える。

この式は、結晶が温度に応じた平衡の状態に達したときの割合を表す。空孔は、結晶をどれだけ丁寧に作っても、0にはならない[2]。温度があるかぎり、熱で一定の数の欠陥が含まれる。

HF が大きい欠陥ほど、作りにくく、割合は小さい。また、同じ HF でも、温度が低いと割合は桁違いに小さくなる。

シリコンでは、空孔のほかに、原子が席の間に入り込んだ自己格子間原子も考える必要がある[2]。二つの数は、互いに結びついている[2]。

ただし、シリコンの点欠陥の HF や濃度について、広く認められた確かな数値は、まだ得られていない[2]。このため、本ページの数値例は、シリコンではなく、数値が示されている単純な金属の値を例に、式の読み方を確かめる。

数値例

単純な金属の空孔の形成エンタルピーは、およそ1 eV とされる[1]。ここでは、SF=0 と置き、HF=1 eV として、式の読み方だけを確かめる。ボルツマン定数は 8.617×10−5 eV/K である[3]。

割合 cV は、300 K(約27℃)で約 1.6×10−17、1,000 K(約727℃)で約 9.1×10−6、1,500 K(約1,227℃)で約 4.4×10−4 になる(本サイトで計算)。300 K から 1,000 K で、約12桁増える。

融点の近くの金属では、空孔の割合は 10−4 から 10−3 とされる[1]。1,500 K の計算結果は、この範囲に近い。

この例は、HF や SF を仮に置いた計算である。実際の金属や、シリコンの空孔の数を表すものではない。

基礎編のどこに効くか

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

温度を上げると、結晶の中の空孔の割合はどうなるか。

答えと解説を見る

答え:2. 指数関数の形で増える

割合は exp(−HF/kT) に比例するため、温度とともに指数関数の形で増える。

問2

形成エンタルピー HF が大きい欠陥は、同じ温度で割合がどうなるか。

答えと解説を見る

答え:1. 小さい

HF は指数の中の壁の高さにあたる。大きいほど作りにくく、割合は小さくなる。

出典

  1. 2. Properties of Point Defects(外部サイト)キール大学(Föll ほか、Defects in Crystals)確認日:
  2. 2.3. Point Defects in Semiconductors like Silicon(外部サイト)キール大学(Föll ほか、Defects in Crystals)確認日:
  3. CODATA Recommended Values of the Fundamental Physical Constants: 2018(NIST SP 961)(外部サイト)米国国立標準技術研究所(NIST)確認日: