半導体の材料にシリコンが使われる理由と、原子が規則正しく並んだ単結晶が必要なわけ、非常に純度の高いシリコンを融かして種結晶から単結晶インゴットを育てる方法を説明する。
単結晶と、引き上げ法(模式図)
- 単結晶原子が、全体で同じ向きにそろって並ぶ
- 多結晶粒ごとに向きが違い、境目で並びが乱れる
- 引き上げ法種結晶の並びにならって、単結晶が下へ育つ
図:左は単結晶。原子が端から端まで同じ向きにそろって並ぶ。中は多結晶。向きの違う小さな粒が集まり、粒の境目(点線)で並びが乱れる。右は引き上げ法。融けたシリコンに種結晶を触れさせ、回しながらゆっくり引き上げると、種結晶と同じ並びの単結晶が下へ育つ。模式図、本サイトで作成半導体の多くは、シリコンで作られる
分野「半導体の基礎」と「デバイス」では、半導体の性質と、トランジスタの仕組みを学んだ。この分野では、その材料であるシリコンと、チップの土台になるウェーハに目を向ける。
半導体の材料には、いくつかの種類がある。その中で、チップの大部分に使われているのがシリコンである。シリコンは、日本語で「ケイ素」と呼ばれる元素で、岩や砂の主な成分として、地球上にたくさんある。
シリコンが使われる理由
シリコンが広く使われるのには、いくつかの理由がある。
一つ目は、材料がたくさんあることである。シリコンは、砂や石に含まれる酸化物の形で、地球上に豊富にある。
二つ目は、表面に良い絶縁膜を作りやすいことである。シリコンを酸素のある中で熱すると、表面にシリコンの酸化物の膜ができる。この膜は、電気をよく防ぐ絶縁体で、シリコンとの境目も整っている。分野「デバイス」で学んだMOSFETのゲートの下の絶縁膜には、長くこの膜が使われてきた。
三つ目は、大きく、欠陥の少ない結晶を作る技術が確立していることである。長い年月をかけて、純度の高い大きな結晶を安定して作る方法が磨かれてきた。
パワー半導体の炭化ケイ素や、光を出す部品に使う化合物の半導体のように、目的によってはシリコン以外の材料が選ばれることもある。
単結晶:原子がそろって並んだ固体
固体の中では、原子がつながり合っている。原子が、ある決まった規則で、端から端まで同じ向きにそろって並んでいるものを「単結晶」と呼ぶ。
これに対して、小さな結晶の粒がたくさん集まり、粒ごとに向きがばらばらなものを「多結晶」と呼ぶ。また、原子の並びに規則がないものを「非晶質(アモルファス)」と呼ぶ。
トランジスタを作るシリコンには、単結晶が使われる。多結晶では、粒と粒の境目で原子の並びが乱れている。その境目で、電子や正孔の動きが妨げられたり、ねらいどおりでない電気の流れが起きたりする。同じ性質のトランジスタをチップの全面にそろえて作るには、どこでも原子の並びが同じ単結晶が欠かせない。
非常に高い純度が必要になる
分野「半導体の基礎」では、ごくわずかな元素(ドーパント)を混ぜて、n型やp型を作ることを学んだ。わずかな量で性質が変わるということは、ねらっていない不純物が少しでも混ざると、性質が狂うということでもある。
そのため、ウェーハに使うシリコンには、非常に高い純度が求められる。材料のシリコンは、砂や石に含まれる酸化物から酸素を取り除いて作り、さらに化学的な処理をくり返して、不純物を取り除いていく。こうして、純度を極めて高めた多結晶のシリコンができる。これが、単結晶を育てる原料になる。
単結晶を育てる:引き上げ法
純度の高い多結晶のシリコンから、大きな単結晶を作る方法として、広く使われているのが「引き上げ法」である。
まず、るつぼに多結晶のシリコンを入れ、高い温度で融かす。融けたシリコンに、ドーパントを決まった量だけ加えることもある。
次に、小さな単結晶のかけら(種結晶)を、融けたシリコンの表面に触れさせる。種結晶をゆっくり回しながら、少しずつ上へ引き上げていく。すると、融けたシリコンが種結晶の下で冷えて固まる。このとき、シリコンの原子は、種結晶の原子の並びにならって並ぶ。
引き上げ続けると、種結晶と同じ原子の並びのまま、結晶が下へ育っていく。こうして、円柱の形をした単結晶の塊ができる。これを「単結晶インゴット」と呼ぶ。
引き上げる速さや温度を細かく保つことで、結晶の太さをそろえ、欠陥を少なくする。種結晶の向きを選ぶことで、インゴットの中の原子の並びの向きも決められる。
別の育て方もある
るつぼを使う方法では、るつぼの材料から酸素などが少しずつ融けたシリコンに入る。この酸素は、場合によっては役に立つこともあるが、より純度の高い結晶が必要な用途もある。
そのような用途には、るつぼを使わない育て方がある。棒の形の多結晶のシリコンの一部だけを、周りから熱を加えて帯のように融かし、その融けた帯を端から端へゆっくり動かしていく方法である。融けた部分が動くにつれて、その後ろで単結晶として固まる。不純物は融けた部分に集まりやすいので、純度の高い結晶が得られる。高い電圧を扱うパワー半導体の一部などで使われる。
インゴットから、ウェーハへ
育てたインゴットは、まず外の形を整え、原子の並びの向きを示す目印を付ける。その後、薄い円板に切り分け、表面を磨いて、鏡のように平らなウェーハに仕上げる。
切り分けてから仕上げるまでの流れは、製造工程の分野の「ウェーハ」のページで詳しく扱う。
このページのまとめ
チップの多くはシリコンで作られる。材料が豊富で、良い絶縁膜を作りやすく、大きな結晶を作る技術が確立しているためである。トランジスタには、原子がそろって並んだ単結晶が必要で、純度も非常に高くなければならない。単結晶は、融かしたシリコンに種結晶を触れさせて、回しながらゆっくり引き上げる方法などで育てる。こうしてできた単結晶インゴットを切り分けて、ウェーハにする。
- 工程:シリコンウェーハの製造
- 用語:シリコンウェーハ:高純度のシリコン単結晶を薄い円板状に切り出し、表面を鏡のように磨いた基板。半導体チップの回路を作り込む土台となる。
- 用語:単結晶インゴット:原子が規則正しく並んだ単結晶のシリコンを、円柱状に成長させた塊。シリコンウェーハの元になる素材。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
トランジスタを作るシリコンに単結晶が使われる理由として、正しいものはどれか。
答えと解説を見る
答え:2. 原子の並びがどこでも同じで、粒の境目による電気の流れの乱れがないから
多結晶では、粒と粒の境目で原子の並びが乱れ、電子や正孔の動きが妨げられる。同じ性質のトランジスタを全面にそろえて作るには、原子の並びがどこでも同じ単結晶が必要である。
問2
引き上げ法で、結晶が種結晶と同じ原子の並びで育つ理由として、正しいものはどれか。
答えと解説を見る
答え:1. 融けたシリコンが種結晶の下で冷えて固まるとき、原子が種結晶の並びにならって並ぶから
種結晶を融けたシリコンに触れさせてゆっくり引き上げると、その下で固まるシリコンの原子は、種結晶の原子の並びにならって並ぶ。そのため、同じ並びのまま結晶が育つ。
問3
ウェーハに使うシリコンに、非常に高い純度が求められる理由として、正しいものはどれか。
答えと解説を見る
答え:3. ごくわずかな元素で性質が変わるため、ねらっていない不純物が混ざると性質が狂うから
半導体は、ごくわずかなドーパントでn型やp型に変わる。そのため、ねらっていない不純物が少しでも混ざると、性質が狂ってしまう。