フォノンと熱伝導:温度で変わる、熱の運ばれ方

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 式
  2. 式のどこを見るか
  3. 数値例
  4. 基礎編のどこに効くか
  5. 次に読む
  6. 理解度チェック
  7. 出典

半導体の中で熱を運ぶのは、主に結晶の原子の振動の粒(フォノン)である。熱伝導率を、熱容量、速さ、平均自由行程の積で表す式から、低温では温度の3乗、高温では温度に反比例する理由を読み、シリコンの値で温度の影響を見積もる。

熱伝導率は、低温で増え、高温で下がる

  1. 温度の3乗温度に反比例温度(対数)熱伝導率(対数)熱伝導率の温度変化(模式図)最大を境に、増減が入れ替わる
  2. 300 K1.50400 K(見積もり)1.13熱伝導率(W/(cm·K))シリコンの熱伝導率400 Kは近似による見積もり
図:左は、結晶の熱伝導率の温度変化の模式図(縦横とも対数の目盛り。数値ではない)。低温では温度の3乗で増え、最大を経て、高温では温度に反比例して下がる(ケルン大学の講義資料)。右は、シリコンの熱伝導率。300 Kの値はCERNの資料、400 Kは反比例の近似による本サイトの見積もり

式

κ=13Cvvℓ

κ は熱伝導率、Cv は単位体積あたりの熱容量、v はフォノンの速さ(音速)、ℓ はフォノンが散乱されずに進める平均の距離(平均自由行程)である[1]。熱の伝わりを、フォノンという粒の拡散として見た式である[1]。

式のどこを見るか

見るのは、Cv と ℓ が温度で変わることである。v は、温度にあまり依存しない。

高い温度では、フォノンの数が温度とともに増え、フォノンどうしがぶつかる回数が増える。そのため、平均自由行程 ℓ は温度に反比例して短くなり、熱伝導率は温度にほぼ反比例して下がる[1]。このとき、結晶の並びの周期を超えて運動量を渡す過程(ウムクラップ過程)が、熱の流れを妨げる主な原因になる[1]。

低い温度では、結晶の欠陥、境界、同位体がフォノンを散乱する。この散乱は温度によらないため、ℓ は一定になり、熱伝導率は熱容量に比例して、温度の3乗で変わる[1]。

したがって、熱伝導率は、低温で温度の3乗で増え、あるところで最大になり、高温では温度に反比例して下がる[1]。同位体をそろえたシリコンでは、この三つの領域が見える[1]。

数値例

シリコンの室温の熱伝導率は、1.5 W/(cm·K)(150 W/(m·K))である[2]。

高温の領域で、熱伝導率が温度にほぼ反比例するとして、300 K から 400 K に温度が上がったときの値を見積もる。熱伝導率は 300/400=0.75 倍になり、約1.1 W/(cm·K) になる(本サイトで計算)。この見積もりは、反比例の近似に基づく目安である。

「熱設計と接合温度」のページで見たとおり、面積1 cm2、厚さ0.5 mmのチップの熱抵抗は、1.5 W/(cm·K) で約0.033 ℃/W である。熱伝導率が0.75倍になると、熱抵抗は約1.33倍の約0.044 ℃/W になる(本サイトで計算)。

基礎編のどこに効くか

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

高い温度で、シリコンの熱伝導率が下がるのは、主に何のためか。

答えと解説を見る

答え:1. フォノンの平均自由行程が短くなるため

高温ではフォノンの数が増え、フォノンどうしがぶつかる回数が増える。平均自由行程 ℓ が温度に反比例して短くなり、熱伝導率は下がる。

問2

熱伝導率を表す式 κ = (1/3) Cv v ℓ で、ℓ は何を表すか。

答えと解説を見る

答え:2. フォノンが散乱されずに進む平均の距離

ℓ は平均自由行程で、フォノンが散乱されずに進める平均の距離である。

出典

  1. CMP1 Lecture 5(フォノンと熱伝導)(外部サイト)ケルン大学(Loosdrecht研究室)確認日:
  2. General Characteristics of Silicon(外部サイト)CERN(半導体検出器の資料)確認日: