半導体の中で熱を運ぶのは、主に結晶の原子の振動の粒(フォノン)である。熱伝導率を、熱容量、速さ、平均自由行程の積で表す式から、低温では温度の3乗、高温では温度に反比例する理由を読み、シリコンの値で温度の影響を見積もる。
熱伝導率は、低温で増え、高温で下がる
- 熱伝導率の温度変化(模式図)最大を境に、増減が入れ替わる
- シリコンの熱伝導率400 Kは近似による見積もり
図:左は、結晶の熱伝導率の温度変化の模式図(縦横とも対数の目盛り。数値ではない)。低温では温度の3乗で増え、最大を経て、高温では温度に反比例して下がる(ケルン大学の講義資料)。右は、シリコンの熱伝導率。300 Kの値はCERNの資料、400 Kは反比例の近似による本サイトの見積もり式
は熱伝導率、 は単位体積あたりの熱容量、 はフォノンの速さ(音速)、 はフォノンが散乱されずに進める平均の距離(平均自由行程)である[1]。熱の伝わりを、フォノンという粒の拡散として見た式である[1]。
式のどこを見るか
見るのは、 と が温度で変わることである。 は、温度にあまり依存しない。
高い温度では、フォノンの数が温度とともに増え、フォノンどうしがぶつかる回数が増える。そのため、平均自由行程 は温度に反比例して短くなり、熱伝導率は温度にほぼ反比例して下がる[1]。このとき、結晶の並びの周期を超えて運動量を渡す過程(ウムクラップ過程)が、熱の流れを妨げる主な原因になる[1]。
低い温度では、結晶の欠陥、境界、同位体がフォノンを散乱する。この散乱は温度によらないため、 は一定になり、熱伝導率は熱容量に比例して、温度の3乗で変わる[1]。
したがって、熱伝導率は、低温で温度の3乗で増え、あるところで最大になり、高温では温度に反比例して下がる[1]。同位体をそろえたシリコンでは、この三つの領域が見える[1]。
数値例
シリコンの室温の熱伝導率は、1.5 W/(cm·K)(150 W/(m·K))である[2]。
高温の領域で、熱伝導率が温度にほぼ反比例するとして、300 K から 400 K に温度が上がったときの値を見積もる。熱伝導率は 倍になり、約1.1 W/(cm·K) になる(本サイトで計算)。この見積もりは、反比例の近似に基づく目安である。
「熱設計と接合温度」のページで見たとおり、面積1 cm、厚さ0.5 mmのチップの熱抵抗は、1.5 W/(cm·K) で約0.033 ℃/W である。熱伝導率が0.75倍になると、熱抵抗は約1.33倍の約0.044 ℃/W になる(本サイトで計算)。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
高い温度で、シリコンの熱伝導率が下がるのは、主に何のためか。
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答え:1. フォノンの平均自由行程が短くなるため
高温ではフォノンの数が増え、フォノンどうしがぶつかる回数が増える。平均自由行程 ℓ が温度に反比例して短くなり、熱伝導率は下がる。
問2
熱伝導率を表す式 κ = (1/3) Cv v ℓ で、ℓ は何を表すか。
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答え:2. フォノンが散乱されずに進む平均の距離
ℓ は平均自由行程で、フォノンが散乱されずに進める平均の距離である。