トランジスタが働くウェーハの表面の品質が大切な理由と、表面に結晶の膜を育てるエピタキシャルウェーハ、絶縁膜をはさんだSOIウェーハ、金属の汚れを内部に閉じ込めるゲッタリング、ウェーハを大きくする理由を説明する。
ウェーハの種類(断面の模式図)
- 磨いたウェーハ単結晶をそのまま切り分け、表面を磨いたもの
- エピタキシャルウェーハ表面に、同じ並びの単結晶の膜を育てたもの
- SOIウェーハ薄いシリコンの層の下に、絶縁膜をはさんだもの
図:ウェーハの断面。左は、単結晶を切り分けて磨いたウェーハ。中は、表面に同じ並びの単結晶の膜を育てたエピタキシャルウェーハ。右は、トランジスタを作る薄いシリコンの層の下に絶縁膜をはさんだSOIウェーハ。層の厚さの比は実際と異なる。模式図、本サイトで作成トランジスタが使うのは、表面のごく薄い部分
前のページでは、単結晶インゴットを育てる方法を学んだ。インゴットは薄い円板に切り分けられ、表面を鏡のように磨いてウェーハになる。切り分けて磨く流れは、製造工程の分野の「ウェーハ」のページで扱っている。
ウェーハには、ある程度の厚さがある。これは、製造の途中で割れたり反ったりしないように、丈夫さを保つためである。ところが、トランジスタが働くのは、そのうち表面のごく薄い部分だけである。分野「デバイス」で学んだチャネルも、ゲートの真下の表面にできる。
そのため、ウェーハでは、表面の近くの品質が特に大切になる。表面に結晶の乱れや汚れがあると、そこに作ったトランジスタが正しく働かない。ウェーハを作る会社は、表面を整えるために、いくつもの工夫をしている。このページでは、その代表的なものを見ていく。
エピタキシャルウェーハ:表面に新しい結晶を育てる
磨いたウェーハの表面に、同じ並びの単結晶の薄い膜を育てたものを「エピタキシャルウェーハ」と呼ぶ。膜を育てることを「エピタキシャル成長」と呼ぶ。
膜は、シリコンを含むガスを、熱したウェーハの表面に流して作る。ガスが表面で分かれ、シリコンの原子が表面に積もっていく。このとき、原子は下のウェーハの原子の並びにならって並ぶので、ウェーハと同じ向きの単結晶の膜になる。引き上げ法で、種結晶の並びにならって結晶が育つのと、考え方は同じである。
エピタキシャル成長には、主に二つの利点がある。
一つ目は、表面の結晶の品質を高くできることである。インゴットを育てるときには、結晶の中に小さな乱れや、るつぼから入った酸素などが含まれる。新しく育てた膜には、こうしたものが少ない。
二つ目は、膜に混ぜるドーパントの量を、下のウェーハとは別に決められることである。たとえば、下のウェーハには電気を通しやすくするドーパントを多く入れ、表面の膜には少なく入れる、といった組み合わせができる。パワー半導体で、高い電圧を受け止める層を作るのにも使われる。
SOIウェーハ:絶縁膜をはさむ
もう一つの代表的な種類が、「SOIウェーハ」である。SOIは、絶縁体の上のシリコン(Silicon On Insulator)を表す。
SOIウェーハは、三つの層でできている。下には、支えとなる厚いシリコンがある。その上に、シリコンの酸化物の薄い絶縁膜が埋め込まれている。さらにその上に、トランジスタを作る薄い単結晶のシリコンの層がある。
普通のウェーハでは、トランジスタの下にもシリコンが続いている。そのため、ねらっていない向きに電気が漏れたり、トランジスタとウェーハの間に余分な電気の出入りが生じて、動きが遅くなったりすることがある。SOIウェーハでは、トランジスタの下に絶縁膜があるので、こうした漏れや余分な出入りを抑えられる。
作り方の一つは、二枚のウェーハを使う方法である。一方の表面に絶縁膜を作り、もう一方と貼り合わせる。その後、片方を薄く削ったり、決まった深さで割ったりして、絶縁膜の上に薄いシリコンの層だけを残す。
SOIウェーハは、普通のウェーハより作るのに手間がかかる。そのため、消費電力を抑えたい用途や、高い周波数の信号を扱う部品、センサーなど、利点が生きる用途で選ばれる。
汚れを内部に閉じ込める:ゲッタリング
製造の途中で、ウェーハにごくわずかな金属が入り込むことがある。金属は、表面のトランジスタの近くにあると、電気の漏れなどの原因になる。
そこで、ウェーハの内部に、金属を引き寄せて捕まえる場所を、わざと作っておく方法がある。これを「ゲッタリング」と呼ぶ。
たとえば、引き上げ法で育てた結晶に含まれる酸素は、熱を加えると、ウェーハの内部で小さな固まりになる。この固まりのまわりには、金属が集まりやすい。表面の近くには固まりを作らず、内部にだけ作るように熱の加え方を工夫すると、トランジスタが働く表面はきれいなまま、金属を内部に閉じ込められる。前のページで、るつぼから入る酸素は「場合によっては役に立つ」と書いたのは、このためである。
ウェーハを大きくする理由
ウェーハの大きさは、時代とともに大きくなってきた。
ウェーハが大きいほど、一枚からとれるチップの数が増える。多くの工程は、ウェーハを一枚ずつ、あるいはまとめて処理するので、一枚あたりの手間がほぼ同じなら、チップ一つあたりの費用を下げやすい。また、円の縁の近くでは、四角いチップが欠けてしまう部分が出るが、ウェーハが大きいほど、その無駄の割合は小さくなる。
一方で、ウェーハを大きくするには、それに合わせて、結晶を育てる装置から製造装置、運ぶ容器までを作り直す必要がある。大きな結晶を欠陥なく育て、全面を均一に平らにする難しさも増す。そのため、大きさを変えるのは、業界全体で足並みをそろえて進める大きな変化になる。
このページのまとめ
トランジスタが働くのはウェーハの表面のごく薄い部分なので、表面の品質が大切である。エピタキシャルウェーハは、表面に同じ並びの単結晶の膜を育てて、品質を高め、ドーパントの量を別に決められるようにしたものである。SOIウェーハは、トランジスタの下に絶縁膜をはさみ、漏れや余分な電気の出入りを抑える。ゲッタリングは、金属の汚れを内部に閉じ込める。ウェーハを大きくすると、チップ一つあたりの費用を下げやすい。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
エピタキシャル成長で、育てた膜がウェーハと同じ向きの単結晶になる理由として、正しいものはどれか。
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答え:2. 表面に積もるシリコンの原子が、下のウェーハの原子の並びにならって並ぶから
シリコンを含むガスを熱したウェーハに流すと、表面に積もる原子は下のウェーハの並びにならって並ぶ。そのため、同じ向きの単結晶の膜が育つ。
問2
SOIウェーハの特徴として、正しいものはどれか。
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答え:2. トランジスタを作る薄いシリコンの層の下に、絶縁膜が埋め込まれている
SOIウェーハは、支えのシリコン、埋め込まれた絶縁膜、トランジスタを作る薄いシリコンの層の三つでできている。トランジスタの下の絶縁膜が、漏れや余分な電気の出入りを抑える。
問3
「ゲッタリング」の説明として、正しいものはどれか。
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答え:3. ウェーハの内部に金属を捕まえる場所を作り、表面の近くをきれいに保つこと
内部に作った酸素の小さな固まりなどのまわりに金属を集めて閉じ込め、トランジスタが働く表面の近くをきれいに保つ方法である。