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損失と熱:電力はどこで失われるか

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 損失は、熱になる
  2. 入のときの損失:導通損失
  3. 切り替えのときの損失:スイッチング損失
  4. 損失の合計と、設計のつり合い
  5. 熱の通り道
  6. 温度の上限と、劣化
  7. 損失を減らす意味
  8. 効率と、熱の量
  9. このページのまとめ
  10. 関係する工程と用語
  11. 次に読む
  12. 理解度チェック

パワー半導体で電力が失われる仕組みと、熱を逃がす考え方を説明する。入のときの導通損失、切り替えのときのスイッチング損失、切り替えの回数との関係、チップから冷却まで熱が通る道筋、温度の上限と、熱の繰り返しによる劣化を扱う。

損失の二つの種類と、熱の通り道(模式図)

  1. 切入切切り替え導通切り替え二つの損失導通損失とスイッチング損失
  2. チップ(熱が生まれる)基板放熱板空気や水へ熱の通り道熱は温度の高いほうから低いほうへ
図:左は、スイッチの入切の様子。入のあいだは導通損失が、切り替えの途中は電圧と電流が重なって、スイッチング損失が生じる。右は、熱の通り道。チップで生じた熱は、基板、放熱板を通って、空気や水へ逃げる。目盛りのない模式図、本サイトで作成

損失は、熱になる

パワー半導体は、スイッチである。理想のスイッチなら、電力を少しも失わない。しかし、実際の部品は、わずかな電力を失う。失われた電力は、熱になる。

損失を知ることは、パワー半導体を理解するうえで中心になる。損失が大きいと、電力が無駄になるだけでなく、部品が熱くなり、冷やすための部品も大きくなる。このページでは、損失がどこで生まれ、熱がどう逃げていくかを見ていく。

入のときの損失:導通損失

スイッチが入っているとき、部品には、わずかな抵抗がある。電流が流れると、その抵抗のぶんだけ電力が失われる。これを、導通損失と呼ぶ。

パワーMOSFETの場合、入のときの抵抗は、電圧を受け止める層の厚さで決まる。損失は、電流が大きいほど大きくなり、電流の二乗に比例して増える。そのため、大きな電流を流す用途では、入のときの抵抗が小さい部品が求められる。IGBTやダイオードでは、入のときに、ほぼ一定の電圧が部品の両端にかかり、電流に比例する損失が生じる。

切り替えのときの損失:スイッチング損失

もう一つの損失は、入と切を切り替える途中で生まれる。切り替えの途中は、電圧と電流が、同時にかかる短い時間がある。電圧と電流の積が電力なので、この短い時間に、電力が失われる。これを、スイッチング損失と呼ぶ。

一回の切り替えで失われる量は小さくても、切り替えの回数が多ければ、合計は大きくなる。つまり、スイッチング損失は、切り替えの回数に比例して増える。切り替えを速く繰り返す用途ほど、スイッチング損失が重要になる。

損失の合計と、設計のつり合い

損失の合計は、導通損失と、スイッチング損失の和である。どちらが大きいかは、用途で変わる。電流が大きく、ゆっくり切り替える用途では、導通損失が中心になる。速く切り替える用途では、スイッチング損失が目立つ。

切り替えを速くすると、コイルやコンデンサを小さくできるが、スイッチング損失は増える。この関係が、部品の選び方と、回路の設計を決める。

熱の通り道

損失で生じた熱は、チップの中で生まれる。この熱を、外へ逃がさないと、チップの温度が上がる。熱は、温度の高いほうから低いほうへ、順に伝わる。

チップで生まれた熱は、チップを固定する層、絶縁の基板、金属の放熱板を通り、最後に、空気や水に渡される。この道筋のどこかで熱が伝わりにくいと、チップの温度が下がらない。熱の伝わりにくさを表す値を、熱抵抗と呼ぶ。熱抵抗が小さいほど、熱が逃げやすい。

温度の上限と、劣化

チップの温度には、上限がある。上限を超えると、特性が変わったり、壊れたりする。パワー半導体は、設計した温度の範囲内で使わなければならない。炭化ケイ素や窒化ガリウムは、高い温度でも動きやすいが、まわりの部品の温度の上限にも注意が必要である。

また、温度が上がったり下がったりを繰り返すと、部品の材料が、伸び縮みを繰り返す。材料ごとに、伸び縮みの大きさが違うので、接合の部分に力がかかり、長い間には、ひびが入ることがある。これが、パワー半導体の寿命を左右する。

損失を減らす意味

損失を減らすことには、二重の意味がある。一つは、電力を無駄にしないことである。もう一つは、熱が減るので、冷やすための部品を小さくでき、機器全体を小さく軽くできることである。次の分野で学ぶ炭化ケイ素や窒化ガリウムが注目される理由の一つも、ここにある。

効率と、熱の量

変換の回路の効率は、出力する電力を、入力した電力で割った値で表す。効率が高い回路でも、扱う電力が大きければ、損失の絶対量は大きい。たとえば、非常に大きな電力を扱う機器では、損失の割合がわずかでも、熱の量は大きくなり、冷却の設備が必要になる。

また、部品の性質は、温度によっても変わる。シリコンのパワーMOSFETでは、温度が上がると、入のときの抵抗が大きくなりやすい。すると、損失がさらに増えて、温度がまた上がる。熱の設計は、損失と温度の関係を合わせて考える必要がある。

このページのまとめ

パワー半導体の損失は、入のときの導通損失と、切り替えのときのスイッチング損失である。導通損失は電流が大きいほど増え、スイッチング損失は切り替えの回数に比例して増える。損失は熱になり、チップから放熱板、空気や水へと伝わる。温度の上限と、熱の繰り返しによる劣化を考えて、設計する。

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

スイッチング損失が生まれる場面として、正しいものはどれか。

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答え:1. 入と切を切り替える途中で、電圧と電流が同時にかかる短い時間

切り替えの途中に、電圧と電流が同時にかかる短い時間がある。その間の電圧と電流の積が損失になる。

問2

切り替えの回数を増やしたとき、増えやすい損失はどれか。

答えと解説を見る

答え:1. スイッチング損失

一回の切り替えで失う量が同じなら、回数が増えるほど、合計のスイッチング損失は増える。

問3

熱抵抗についての説明として、正しいものはどれか。

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答え:1. 熱の伝わりにくさを表す値で、小さいほど熱が逃げやすい

熱抵抗は、熱の伝わりにくさを表す。小さいほど、熱が逃げやすい。