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高い電圧に耐える仕組み:パワー半導体の耐圧

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 耐圧とは
  2. 逆向きの電圧と、空乏層
  3. 強い電界で、何が起きるか
  4. 厚くて、不純物の少ない層で受け止める
  5. 耐圧と、電気の通りやすさのつり合い
  6. チップの端で、電界が集中する
  7. 製造で、耐圧が決まる
  8. このページのまとめ
  9. 関係する工程と用語
  10. 次に読む
  11. 理解度チェック

パワー半導体が高い電圧に耐える仕組みを説明する。耐圧の意味、逆向きの電圧で広がる空乏層、強い電界で起きるなだれ、厚く不純物の少ない層で電圧を受け持つ考え方、チップの端の電界を和らげる構造、耐圧と電気の通りやすさのつり合いを扱う。

逆向きの電圧と、耐圧の考え方(模式図)

  1. p型空乏層電気を通さないn型逆向きの電圧電界が強すぎると、絶縁破壊逆向きの電圧で広がる電圧を空乏層が受け持つ
  2. 薄い層耐圧:低い厚い層耐圧:高い基板基板層の厚さと耐圧厚いほど耐圧は高く、電気は通りにくい
図:左は、pn接合に逆向きの電圧をかけたときの空乏層。電気を運ぶ粒が遠ざけられ、電気を通さない領域が広がって、電圧を受け持つ。右は、耐圧と層の厚さ。不純物の少ない層を厚くするほど、高い電圧に耐えられるが、電気は通りにくくなる。目盛りのない模式図、本サイトで作成

耐圧とは

パワー半導体は、スイッチが切れているとき、高い電圧がかかる。電気自動車のモーターを動かす回路では、切れているスイッチの両端に、高い電圧がかかり続ける。そのとき、電流を漏らさずに、電圧を受け止めなければならない。壊れずに受け止められる電圧の限度を、耐圧と呼ぶ。

製品には、耐圧が定格として示される。実際に使うときは、定格に対して余裕を持たせる。電源の電圧の揺れや、切り替えのときに生じる一時的な高い電圧にも、耐える必要があるからである。論理回路のトランジスタは、低い電圧で動くので、耐圧は大きな問題にならない。パワー半導体では、耐圧が設計の中心になる。

逆向きの電圧と、空乏層

基礎の分野で学んだとおり、pn接合には、電流を流す向きと、流さない向きがある。電流を流さない向き(逆向き)に電圧をかけると、接合の近くで、電気を運ぶ電子と正孔が遠ざけられる。電気を運ぶ粒がいなくなった領域が、空乏層である。

空乏層は、電気を通さない。逆向きの電圧を大きくすると、空乏層は広がる。かけた電圧は、空乏層が受け持つ。空乏層の内部には、電界(電気の力)が生まれ、電圧が高いほど、電界は強くなる。

強い電界で、何が起きるか

電界が強くなりすぎると、半導体の中の電子が、電界で加速されて、勢いよく動く。その電子が、原子にぶつかって、ほかの電子をはじき出す。はじき出された電子も加速され、さらに別の電子をはじき出す。これが連鎖して、電子と正孔が雪崩のように増え、急に大きな電流が流れる。この現象を、なだれ降伏、または絶縁破壊と呼ぶ。

耐圧は、この現象が起きない範囲の電圧である。材料によって、耐えられる電界の強さには限りがあり、その限りが、耐圧の上限を決める。

厚くて、不純物の少ない層で受け止める

高い電圧を受け止めるには、電界が限りを超えないように、電圧を、厚い層に広げて受け持たせればよい。空乏層は、不純物が少ない側ほど、広く伸びる。そこで、パワー半導体は、不純物の濃度が低い層を、厚く設ける。

たとえば、層が薄いと、すぐに空乏層が端まで届いて、電圧を受け止めきれない。耐圧を高くしたければ、低濃度の層を厚くする。この層は、ウェーハの上にエピタキシャル成長で作ることが多い。厚さと濃度を、細かく制御できるからである。

耐圧と、電気の通りやすさのつり合い

層を厚くし、不純物を少なくすると、耐圧は上がるが、スイッチが入っているときに、電流が通りにくくなる。通りにくいと、入のときの損失が大きくなり、熱が出る。耐圧を高くするほど、入のときの抵抗は、急に大きくなる。

つまり、耐圧を上げることと、電気を通りやすくすることは、両立しにくい。設計では、必要な耐圧に対して、できるだけ電気を通りやすい構造を探す。同じ耐圧なら、通りやすいほうが、損失が少なく、優れている。この考え方は、材料の違いを理解するうえで大切である。

チップの端で、電界が集中する

実際のチップには、端がある。端では、電界が曲がったり、集まったりして、内部よりも強くなりやすい。強くなった場所から先に絶縁破壊が起きると、チップ全体の耐圧が下がってしまう。

そこで、チップの端のまわりに、電界をゆるやかに広げる構造を作る。たとえば、端のまわりに、環状の領域を何重かに設けたり、電極を端の外側へ張り出したりする。これらを、終端構造と呼ぶ。終端構造は、内部の構造とあわせて、耐圧を左右する。

製造で、耐圧が決まる

耐圧は、設計だけでなく、製造の出来にも左右される。結晶の欠陥や、表面の汚れ、膜の厚さのむらがあると、そこに電界が集中して、設計よりも低い電圧で壊れる。パワー半導体では、欠陥の少ない結晶や、清浄な表面が、特に求められる。

不純物を打ち込む量や深さも、精密に制御する。完成したチップには、高い電圧をかけて、漏れる電流を測る試験を行い、耐圧を確かめる。

このページのまとめ

パワー半導体は、スイッチが切れているとき、高い電圧を受け止める。逆向きの電圧で、pn接合に空乏層が広がり、電圧を受け持つ。電界が限りを超えると、なだれ降伏が起きる。不純物が少なく、厚い層を設けるほど、耐圧は高くなるが、電気は通りにくくなる。チップの端には電界が集中しやすいので、終端構造で和らげる。

  • 工程:イオン注入
  • 工程:成膜(CVD、PVD、ALD)
  • 工程:エッチング
  • 用語:エピタキシャル成長:結晶の基板の上に、基板の結晶の並びを引き継いで、単結晶の薄膜を成長させる方法である。
  • 用語:パワー半導体:電力の変換や制御に使う半導体素子の総称。大きな電圧や電流を扱い、スイッチ動作で電力の形を変える。
  • 用語:シリコンウェーハ:高純度のシリコン単結晶を薄い円板状に切り出し、表面を鏡のように磨いた基板。半導体チップの回路を作り込む土台となる。

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

パワー半導体の耐圧を高くするための考え方として、正しいものはどれか。

答えと解説を見る

答え:1. 不純物が少ない層を厚くして、空乏層が広がれるようにする

空乏層は、不純物が少ない側ほど広く伸びる。不純物の少ない層を厚くすると、高い電圧を受け止められる。

問2

耐圧を上げるために低濃度の層を厚くすると、起きやすいことはどれか。

答えと解説を見る

答え:1. スイッチが入っているときに電流が通りにくくなり、損失が大きくなる

厚く不純物の少ない層は、電気が通りにくい。入のときの損失が大きくなり、熱が出る。

問3

なだれ降伏の説明として、正しいものはどれか。

答えと解説を見る

答え:1. 強い電界で加速された電子が、ほかの電子をはじき出す連鎖が起き、急に大きな電流が流れる現象

加速された電子が原子にぶつかって別の電子をはじき出し、それが連鎖して、急に大きな電流が流れる。