要旨
- データセンターの電力の消費は、2024年の約415テラワット時から、2030年に約945テラワット時へと2倍以上に増える見通しである[1]。チップの間や装置の間のデータのやり取りを、電気から光に置き換えて電力を減らす「光電融合」の技術は、その対策の一つである。
- 光の部品をスイッチのチップと同じパッケージに載せるCPO(Co-Packaged Optics)のスイッチは、2026年に出荷が始まった。量産が本格化するのは2027〜2028年と見込まれている[2]。
- 日本では、NTTのグループを中心に、国の支援を受けて、光と電子の回路を組み合わせた「光チップレット」の量産の技術の開発が進む[3][4]。この事業に参加する企業は、本サイトの掲載企業に入っていない。掲載企業の中で関わりを確かめられたのは、光デバイスを作る三菱電機である[5]。
市場の動き
国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年の世界のデータセンターの電力の消費は約415テラワット時で、世界の電力の消費の約1.5%にあたる。地域別では、米国が45%、中国が25%、欧州が15%を占める[1]。消費は、2030年に約945テラワット時と2倍以上に増え、2035年には基本のシナリオで約1,200テラワット時になると見込まれている(図1)。2035年の見通しには、シナリオによって700〜1,700テラワット時の幅がある[1]。
電力の消費が増える中で、計算の装置の間のデータのやり取りにかかる電力も課題になる。今のデータセンターでは、サーバーやスイッチの間を光ファイバーでつなぎ、その端で光と電気を変換する「光トランシーバ」を差し込んで使うのが一般的である。光電融合は、この変換の部品を小さくして、チップのすぐそばに置き、電気の配線を短くする考え方である[4]。
この考え方を使った製品が、出荷の段階に入った。台湾の調査会社トレンドフォースによると、NVIDIAは、TSMCと共同で開発し、TSMCのパッケージの技術「COUPE」を使ったCPOのスイッチを、一部の取引先に出荷し始めた。ブロードコムのCPOのスイッチも量産に入り、差し込み型の光トランシーバに比べて、電力の消費を最大70%減らせるとしている[2]。トレンドフォースは、CPOのスイッチの量産が本格化するのは2027〜2028年と見ている[2]。
日本では、NTTが、2024年1月に、国の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」に採択され、400億円を超える支援を受けて、光電融合の技術の開発を進めている[4]。さらに、2026年10月には、NTTのグループと国内の企業が、光チップレットの量産の技術の開発で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業に採択された[3]。
図1 世界のデータセンターの電力の消費
単位:テラワット時。期間:2024年〜2035年(見通し)。マウスを重ねなくても、棒や点を選ぶ(タップ、クリック、キーボード)と数値が出ます。
2030年と2035年は、IEAの基本のシナリオの見通しです。2035年は、シナリオによって700〜1,700テラワット時の幅があります。
表で見る
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出典:Energy and AI Executive summary、国際エネルギー機関(IEA)。確認
バリューチェーン
光電融合の技術は、光と電気を変換する場所を、少しずつチップに近づける形で進む(図2)。NTTは、すでにデータセンターの光トランシーバで使われている光電融合のデバイスを、小さく、電力の少ないものにして、基板の間やチップの間をつなぎ、2032年度までにチップの中に組み込むことを目指している[4]。
2024年に採択された国の事業では、3つの技術を開発する。光と電子の回路を1つのパッケージにまとめる光チップレットの実装の技術、光電融合のインターフェースを持つメモリのモジュール、そして処理の遅れを一定に保つ計算の技術である。このうち光チップレットの実装の技術の開発には、古河電気工業、NTTイノベーティブデバイス、NTTデバイステクノロジ、新光電気工業が参加する[4]。
この流れの中で、必要な部品と工程が分かれる。光の回路をシリコンのウェーハの上に作る「シリコンフォトニクス」、光を出すレーザーなどに使う化合物の半導体、そして光と電子の回路を1つのパッケージにまとめる実装の技術である。2026年10月に採択された事業では、ジャパンセミコンダクターがシリコンフォトニクスの量産の技術を、古河電気工業が化合物の光半導体の量産の技術を、新光電気工業がチップレットの実装と工程の中の検査を受け持つ。NTTイノベーティブデバイスが提案の代表として製造、検査、実装の技術を担い、NTTが助言と供給網づくりを支える[3]。この事業は、研究開発の時点に比べて10倍以上の生産性を目標に、試作のラインを作って評価する[3]。
トレンドフォースは、CPOの量産の制約として、3つを挙げる。高い歩留まりで量産できる会社の少ない「光エンジン」、立ち上げに時間のかかるシリコンフォトニクスのウェーハの製造と実装、そしてAIのチップと取り合いになる2.5次元・3次元の先端パッケージの生産能力である[2]。
図2 光と電気を変換する場所がチップに近づく流れ(模式図)
- 1. 差し込み型装置の端の光トランシーバで、光と電気を変換する
- 2. CPO光の部品を、スイッチのチップと同じパッケージに載せる
- 3. 光チップレット光と電子の回路を小さな部品にし、チップのすぐそばに置く
- 計算・スイッチのチップ
- 光と電気を変換する部品
- 基板・パッケージ
- 電気の配線
- 光ファイバー
図:差し込み型の光トランシーバでは装置の端で光と電気を変換する。CPOでは変換の部品をスイッチのチップと同じパッケージに載せ、光チップレットではさらにチップのすぐそばに置く。寸法は簡単にした模式図、本サイトで作成日本企業の位置
国の事業で光チップレットの量産の技術を担う企業は、いずれも本サイトの掲載企業に入っていない。掲載企業の中で、公開資料で関わりを確かめられたのは、光デバイスを作る三菱電機だけである。三菱電機の光デバイスは、データセンターや光ファイバーの通信に使われている[5]。
表には、構図を示すために、掲載企業の外から、国の事業で光チップレットの開発を担う国内の企業と、CPOのスイッチを出荷する海外の企業を載せた。掲載企業の外の企業は、名前だけを載せ、企業のページへのリンクは付けない。
光電融合は、製品の出荷が始まったばかりの段階にある。今後、量産の段階に進むにつれて、材料、装置、検査の企業の関わりが公開資料で確かめられるようになれば、表に加えていく。
このページに載せる企業
光と電気を変換する部品、シリコンフォトニクス、光と電子の回路をまとめる実装に関わることを、公開資料で確かめられる企業を載せる。担い手の多くが掲載企業の外のため、国の事業の参加企業とCPOのスイッチの主な企業を名前で載せる。
光デバイスと光半導体
三菱電機
光デバイスを作り、製品はデータセンターや光ファイバーの通信に使われる。[5]
ジャパンセミコンダクター日本
シリコンフォトニクスの量産の技術を開発する。[3]
古河電気工業日本
光チップレットに使う化合物の光半導体の量産の技術を開発する。[3]
掲載企業は工程ごとに証券コードの順です。掲載の基準は編集方針にあります。
論点と今後の注目点
発表元の見方
トレンドフォースは、NVIDIAがTSMCとの協力を深めて縦の統合を進めていること、大手のクラウドの企業の一部が、長期の調達の契約や、シリコンフォトニクスの企業への出資で供給を確保していることを挙げる。そのうえで、シリコンフォトニクスの設計、光エンジンの製造、先端パッケージを自社の中に持つ企業が、量産の拡大の中で有利になると見ている[2]。
NTTは、光電融合のデバイスで、電力の削減、大容量・高品質、低い遅延を実現し、IOWN(光の技術を使う通信と計算の基盤)の構想を進めるとしている[4]。
本サイトの見方
SemiCompassの見方です。投資の判断の材料ではありません。
1つ目の論点は、量産の歩留まりと、先端パッケージの取り合いである。CPOの部品は、光と電子を精密に組み合わせる必要があり、量産できる会社が限られる。さらに、AIのチップと同じ先端パッケージの生産能力を使うため、AIのチップの需要が強いほど、CPOに回せる能力が限られる可能性がある。
2つ目の論点は、日本の担い手の形である。国の支援を受ける開発は、研究から試作のラインへと段階を進めてきた[3][4]。国内の開発は、NTTのグループを軸に、複数の企業が工程を分担する形をとる。NVIDIAとTSMCのような縦の統合と比べて、分担した各社の技術を、量産の段階でどこまで速くつなげられるかが問われる。分担の形には、各社が得意な工程に集中できる利点がある。一方で、工程の間の受け渡しの規格や、品質の責任の分け方を決める手間がかかる。試作のラインでの評価の結果が、量産に移れるかどうかの判断の材料になる。
3つ目の論点は、使う側の動きである。大手のクラウドの企業が、光の部品を自社で開発したり、出資で囲い込んだりする動きがある[2]。日本の技術がどの顧客の、どの製品に採用されるかが、量産の規模を決める。採用の発表は、今後の注目点である。
4つ目の論点は、電力の制約との関係である。データセンターの電力の消費の見通しには、2035年で700〜1,700テラワット時という大きな幅がある[1]。光電融合で装置の間の通信の電力を減らせても、計算そのものの電力が増え続ければ、全体の消費は増える。光電融合は電力の問題を一つで解く技術ではなく、半導体の微細化、冷却、電源の効率化と組み合わせて効く対策の一つとして見るのが妥当である。
このページは、公開資料にもとづいて関係する企業を整理したものです。特定の企業の株式の売買を勧めるものではありません。詳しくは免責事項をご覧ください。
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ありがとうございました。今後の改善に使います。