ゲート、酸化膜、半導体を重ねたMOS構造で、トランジスタが導通し始めるしきい値電圧が何で決まるかを式から読む。基板の濃度が高いほど、酸化膜が厚いほど、しきい値が上がることを、シリコンの例で確かめる。
しきい値は、基板の濃度が高いほど、酸化膜が厚いほど上がる
- MOS構造模式図
- 濃度としきい値薄い酸化膜ほど、しきい値が低い
図:左は、MOS構造の模式図。ゲートの電圧が酸化膜をはさんで、半導体の表面にチャネルを作る。右は、しきい値電圧とフラットバンド電圧の差 VT−VFB を、基板の濃度ごとに計算したもの(酸化膜の厚さ5 nmと2.5 nmは仮定の値)。式は UCSB と MIT OpenCourseWare の資料、計算は本サイト式
はしきい値電圧で、半導体の表面にチャネル(電子の通り道)ができ始めるゲートの電圧である。 はフラットバンド電圧で、ゲートと半導体の仕事関数の差で決まる[1]。 は、基板のフェルミ準位と真性準位の差を電圧で表した量である。 は基板(p型)の不純物の濃度、 は半導体の誘電率、 は電気素量である。
は、酸化膜の単位面積あたりの容量である[1][2]。
は酸化膜の誘電率、 は酸化膜の厚さである。
式のどこを見るか
しきい値は、三つの項の和である。 は、構造の材料の組み合わせで決まる。 は、表面のエネルギーをバンドの曲がりで だけ動かして、反転させるのに必要な電圧である[1]。最後の項は、そのとき表面にできる空乏層の電荷を、酸化膜の容量で電圧に直したものである[1]。
は濃度の対数に比例する。基板の濃度が高くなると、 は少しずつ増える。一方、最後の項は、平方根の中に がある。濃度が高いほど、空乏層の電荷が増え、この項は大きく増える。
は分母にある。酸化膜が薄いほど は大きく、最後の項は小さくなる。つまり、酸化膜を薄くすると、同じ基板の濃度で、しきい値が下がる。ゲートの電圧が、基板の表面を動かしやすくなるためである。
基板の電圧がソースからずれると、しきい値は平方根の形で変わる(基板効果)[1]。
数値例
酸化シリコンの比誘電率は3.9、真空の誘電率は F/cm、シリコンの比誘電率は11.7である[2]。 は約 F/cm になる(本サイトで計算)。
nm とすると、 は約 F/cm である(本サイトで計算)。熱電圧は300 Kで約25.9 mV、 は cm とする[2]。
cm のとき、 は約0.60 V、最後の項は約0.02 V で、 は約0.62 V である。 cm では、 は約0.83 V、最後の項は約0.24 V で、 は約1.07 V になる(本サイトで計算)。濃度を100倍にすると、約0.46 V 上がる。
cm で、酸化膜を2.5 nm に薄くすると、最後の項は約0.12 V になり、 は約0.95 V に下がる(本サイトで計算)。厚さを半分にすると、最後の項は半分になる。
は仮定の値である。実際のトランジスタの値ではない。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
基板の不純物の濃度を高くすると、しきい値電圧はどうなるか。
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答え:2. 上がる
濃度が高いほど、2φF が増え、空乏層の電荷による項も平方根で増える。そのため、しきい値は上がる。
問2
酸化膜を薄くすると、酸化膜の容量 Cox としきい値電圧はどうなるか。
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答え:1. Cox は大きくなり、しきい値は下がる
Cox = εox/tox なので、薄いほど Cox は大きい。空乏層の電荷の項は Cox で割るため小さくなり、しきい値は下がる。