MOSFETの電流:ゲートの電圧の2乗で増え、下限は60 mV/桁

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 式
  2. 式のどこを見るか
  3. 数値例
  4. 基礎編のどこに効くか
  5. 次に読む
  6. 理解度チェック
  7. 出典

MOSFETのドレイン電流が、ゲートの電圧としきい値の差の2乗で決まることを式から読む。しきい値より下では電流が指数で減り、室温で電圧が約60 mV下がるごとに10分の1になるという、原理の下限も確かめる。

しきい値を超えると電流は2乗で増え、下では指数で減る

  1. 024012ドレインの電圧(V)ID(mA)1.5 V1 V0.5 Vドレイン電流と電圧曲線ごとに、VGS−VT が違う
  2. VT傾きの下限約60 mV/桁ゲートの電圧ID(対数)ゲートの電圧と電流(模式図)しきい値の前後で、形が変わる
図:左は、VGS−VT が0.5 V、1 V、1.5 V のときのドレイン電流とドレイン電圧の関係(酸化膜5 nm、W/L=10、移動度400 cm²/(V·s)は仮定の値)。式は UCSB と MIT OpenCourseWare の資料、計算は本サイト。右は、ゲートの電圧と電流の関係の模式図(縦は対数。数値ではない)で、しきい値より下の傾きは室温で約60 mV/桁が下限(arXiv:1811.09146)

式

ID=12μCoxWL(VGS−VT)2

ID はドレイン電流、μ はチャネルの電子の移動度、Cox は酸化膜の単位面積あたりの容量である。W はチャネルの幅、L は長さ、VGS はゲートとソースの間の電圧、VT はしきい値電圧である。これは、ドレインの電圧が十分に高い飽和領域の式である[1][2]。

しきい値より下では、電流は指数で減る。ゲートの電圧を VGS から下げたとき、電流が10倍小さくなるのに必要な電圧 S は、次の形で表せる[3]。

S=kTqln⁡10×m,m=1+CdeplCox

Cdepl は空乏層の容量で、m は1以上である[3]。

式のどこを見るか

見るのは、(VGS−VT)2 である。しきい値を超えた電圧が2倍になると、電流は4倍になる。電圧を上げるほど、電流は急に増える。

次に、μCoxW/L である。幅を広げるか、長さを縮めると、電流が増える。酸化膜を薄くして Cox を大きくしても、同じである。

トランジスタをスイッチに使うとき、オフのときの電流を、小さく抑えたい。しきい値より下の電流が、ゲートの電圧 S ごとに10分の1になる。S が小さいほど、短い電圧の変化でオフにできる。

m は1より小さくならないため、S には下限がある。m=1 のとき S=(kT/q)ln⁡10 で、300 Kで約60 mV/桁になる[3]。これはボルツマン限界と呼ばれ、通常のトランジスタの原理的な下限である[3]。

数値例

ここでは、tox=5 nm、W/L=10、μ=400 cm2/(V·s) と仮定する。Cox は約 6.9×10−7 F/cm2 である[2](本サイトで計算)。

VGS−VT=1 V のとき、ID=0.5×400×6.9×10−7×10×1 から、約1.4 mA になる。VGS−VT=0.5 V なら約0.35 mA で、電圧を半分にすると、電流は4分の1になる(本サイトで計算)。

300 Kの熱電圧は、ボルツマン定数と電気素量[4]から約25.9 mV である。S=(kT/q)ln⁡10 は、約59.5 mV/桁になる(本サイトで計算)。オフの電流を5桁小さくするには、m=1 でも、約0.30 V のゲートの電圧の低下が必要である。

上の移動度、幅と長さ、酸化膜の厚さは、式の読み方を確かめるための仮定の値である。実際のトランジスタの値ではない。

基礎編のどこに効くか

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

MOSFETの飽和領域で、VGS − VT を2倍にすると、ドレイン電流はおよそ何倍になるか。

答えと解説を見る

答え:2. 4倍

電流は (VGS − VT) の2乗に比例する。2倍の2乗は4なので、電流は4倍になる。

問2

室温で、理想的なMOSFETのしきい値より下の電流を10分の1にするのに、必要なゲートの電圧の低下は、最小でおよそいくらか。

答えと解説を見る

答え:2. 約60 mV

下限は (kT/q) ln10 で、300 Kでは約60 mV/桁である。m が1より大きいと、これより大きくなる。

出典

  1. Lecture 4(MOS容量としきい値電圧、MOSFETの電流)(外部サイト)カリフォルニア大学サンタバーバラ校(K. Banerjee)確認日:
  2. 6.012 Final Exam Formula Sheet(外部サイト)MIT OpenCourseWare 6.012(Microelectronic Devices and Circuits)確認日:
  3. Revised theoretical limit of subthreshold swing in field-effect transistors(arXiv:1811.09146)(外部サイト)arXiv確認日:
  4. CODATA Recommended Values of the Fundamental Physical Constants: 2018(NIST SP 961)(外部サイト)米国国立標準技術研究所(NIST)確認日: