パワー半導体が使われる主な場面を、用途ごとに説明する。電気自動車、太陽光や風力の発電、データセンターと充電器、鉄道と電力の設備、家電と産業の機械を取り上げ、用途ごとに求められる電圧、電流、速さ、信頼性、費用の違いと素子の選び方を扱う。
電気の形を変える流れ(模式図)
- 電気自動車直流を交流に変えて、モーターを回す
- 太陽光発電直流を交流に変えて、網につなぐ
図:左は、電気自動車。電池の直流の電気を、インバーターで交流に変えて、モーターを動かす。右は、太陽光発電。パネルの直流の電気を、パワーコンディショナーで交流に変えて、電力の網につなぐ。どちらも、中身はパワー半導体のスイッチである。目盛りのない模式図、本サイトで作成電気のあるところに、パワー半導体がある
パワー半導体は、電気で動くほとんどの機器の中に入っている。電気は、発電所から家庭や工場に届くまでに、電圧や、直流と交流の形を何度も変える。そのたびに、パワー半導体が、スイッチとして働く。
このページでは、前のページまでで学んだ仕組みが、どのような場面で使われているかを見ていく。場面によって、求められる性質が違うことも、あわせて理解したい。
電気自動車
電気自動車では、電池から取り出した直流の電気を、インバーターで交流に変え、モーターを動かす。インバーターの中のスイッチが、パワー半導体である。スイッチの切り替え方を変えることで、モーターの回る速さと力を、細かく制御できる。
減速するときには、モーターが発電機として働き、電気を電池に戻す。この電気の向きを変える制御にも、パワー半導体が使われる。外部の電源から電池を充電する回路や、電池の電圧を別の電圧に変える回路にも、入っている。車の外にある急速な充電設備にも、大きな電力を変換する回路が入っている。
損失が小さいほど、電池の電気を無駄にせず、同じ電池で長く走れる。熱が少なければ、冷やす装置を小さくでき、車を軽くできる。そのため、損失の小さい炭化ケイ素などの材料が、使われ始めている。
太陽光発電と風力発電
太陽光の発電では、パネルが作るのは直流の電気である。この電気を、家庭や電力の網で使える交流に変えるのが、パワーコンディショナーと呼ばれる機器で、中身はインバーターである。
風力の発電では、風の強さで、発電機の回転の速さが変わる。そのまま電力の網につなぐと、周波数が合わない。そこで、パワー半導体で電気の形を整えてから、網へ送る。再生可能エネルギーは、発電の量が天気で変わるので、その電気を安定した形に整える役割が大きい。
データセンターと情報機器
データセンターでは、数多くのサーバーが、大量の電気を使う。電力の網から来た電気を、サーバーの中のチップが使える低い電圧まで、段階的に変えていく。この変換での損失が大きいと、無駄になる電気が増え、冷却にも余計な電力が要る。
そのため、データセンターの電源には、損失が小さく、小さくまとまる窒化ガリウムなどが使われ始めている。停電のときに電気を供給する装置にも、電気の形を変える回路が入っている。スマートフォンやパソコンの充電器が小さくなったのも、速く切り替えられるパワー半導体のおかげである。
鉄道と、電力の設備
鉄道の電車は、大きなモーターを、パワー半導体で制御する。駅で止まるときに、モーターを発電機として使い、電気を回収する仕組みもある。
電力の設備では、離れた場所に、大きな電力を効率よく送るために、電気の形を変える装置が使われる。ここでは、非常に高い電圧と、大きな電流に耐えるパワー半導体が必要になる。
家電や産業の機械
エアコンや冷蔵庫、洗濯機の中には、モーターを制御するパワー半導体が入っている。以前は、モーターを一定の速さで回し、入れたり切ったりしていた。パワー半導体で回る速さを細かく調節すると、必要な分だけ動かせるので、使う電気が減る。
工場の機械やロボットでも、同じ考え方でモーターを制御し、動きを正確にして、電気の無駄を減らしている。
用途で、求められる性質が違う
用途を、四つの観点で整理できる。扱う電圧、流す電流、切り替えの速さ、そして信頼性と費用である。
電気自動車や鉄道、電力の設備は、高い電圧と大きな電流に耐え、長い期間、安定して動き続けることが求められる。データセンターや充電器は、速く切り替えられ、損失が小さく、小さいことが求められる。家電は、安く、大量に作れることが重要である。
そのため、用途に合わせて、素子の種類、材料、パッケージが選ばれる。電圧が高く、電流が大きい用途にはIGBTや炭化ケイ素のMOSFET、速さが重要な用途には窒化ガリウムのトランジスタ、費用を重視する用途にはシリコンの部品、という考え方が基本になる。さらに、車や鉄道のように、安全に関わる用途では、厳しい信頼性の試験が行われる(次のページで学ぶ)。
このページのまとめ
パワー半導体は、電気で動く機器の中で、電気の形を変えるスイッチとして働く。電気自動車、太陽光や風力の発電、データセンター、鉄道、電力の設備、家電、産業の機械に使われる。損失が小さいほど、無駄な電気と熱が減る。電圧、電流、速さ、信頼性、費用への要求が用途ごとに違うので、素子の種類と材料が使い分けられる。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
パワー半導体が、電気自動車で担っている役割として、正しいものはどれか。
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答え:1. 電池の直流を交流に変えて、モーターの速さと力を制御する
インバーターの中のスイッチがパワー半導体で、電池の直流を交流に変え、モーターの速さと力を制御する。
問2
用途ごとの求められる性質の組み合わせとして、適切なものはどれか。
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答え:1. データセンターの電源や充電器には、速く切り替えられ、損失が小さく、小さいことが求められる
データセンターや充電器では、速い切り替えと小ささが重要である。用途ごとに求められる性質は違う。
問3
太陽光発電で、パワーコンディショナーの中身にあたる回路はどれか。
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答え:1. インバーター
パネルが作る直流を、網で使える交流に変えるので、中身はインバーターである。