有効質量と状態密度:バンドの曲がりが、電子の入れる席の数を決める

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 式
  2. 式のどこを見るか
  3. 数値例
  4. 基礎編のどこに効くか
  5. 次に読む
  6. 理解度チェック
  7. 出典

結晶の中の電子が、電界に対して軽く動くか重く動くかを表す有効質量が、バンドの曲がり具合で決まることを式から読む。有効質量が実効状態密度に3/2乗で効くことを、シリコンとヒ化ガリウムの値で確かめる。

バンドが急に曲がるほど電子は軽く、席は少ない

  1. 曲がりが急:軽い緩やか:重い波数 k →Eバンドの曲がりと有効質量模式図
  2. Si2.82×10¹⁹GaAs4.37×10¹⁷101610181020Nc(cm⁻³、対数)実効状態密度 Nc質量16倍で、約65倍
図:左は、結晶の中でのエネルギー E と波数 k の関係の模式図。曲がりが急なバンドは有効質量が小さく、緩やかなバンドは大きい。右は、300 Kの伝導帯の実効状態密度 Nc(横軸は対数の目盛り)。値はイリノイ大学 ECE 340 Lecture 8、有効質量と Nc の式はペルージャ大学の講義資料

式

m∗=ℏ2d2E/dk2

m∗ は有効質量、ℏ はプランク定数を 2π で割った量、E は電子のエネルギー、k は結晶の中での電子の波数(運動量に比例する量)である[1]。有効質量は、電子が結晶の中で電界を受けたとき、どれだけ加速されやすいかを表す。

有効質量は、実効状態密度にも入る[1]。

Nc=2(2πm∗kTh2)3/2

Nc は伝導帯の実効状態密度で、電子が入れる席の数の目安である。正孔の側の Nv にも、同じ形の式が使われる[1]。

式のどこを見るか

最初に見るのは、分母の d2E/dk2 である。これは、バンドの曲がり具合を表す。曲がりが急なバンドほど、有効質量は小さい。平らなバンドほど、有効質量は大きい[1]。有効質量が小さい電子は、同じ電界で、大きく加速される。

次に見るのは、Nc の中の m∗3/2 である。有効質量が大きいほど、Nc は大きくなる[1]。有効質量が4倍になれば、Nc は8倍になる。バンドが平らなほど、同じエネルギーの範囲に、電子が入れる席が多い。

Nc は、温度の 3/2 乗にも比例する。温度が上がるほど、席が増える。

シリコンの伝導帯の底は、結晶の中の6か所にある。そのため、状態密度の有効質量は、1か所分の質量から、谷の数を考えて求める[3]。

数値例

シリコンの電子の状態密度の有効質量は、真空中の電子の質量 m0 の1.08倍、ヒ化ガリウム(GaAs)は0.067倍である[2]。m∗ が約16倍も違う。

300 Kの Nc は、シリコンで 2.82×1019 cm−3、GaAsで 4.37×1017 cm−3 である[2]。式で計算し直すと、プランク定数、ボルツマン定数と電子の質量[4]から、それぞれ約 2.82×1019、4.35×1017 cm−3 になり、表の値とほぼ一致する(本サイトで計算)。質量が約16倍違うと、Nc は約65倍違う。

前のページ「フェルミ分布」の式で、電子の濃度を 1017 cm−3 にするのに必要な EC−EF を比べる。kTln⁡(Nc/n) から、シリコンは約0.146 eV、GaAsは約0.038 eV である(本サイトで計算)。GaAsは席が少ないため、少ない電子で、フェルミ準位が伝導帯に近づく。

温度が300 Kから400 K に上がると、Nc は約1.54倍になる(本サイトで計算)。

基礎編のどこに効くか

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

バンドの曲がりが急なほど、有効質量はどうなるか。

答えと解説を見る

答え:2. 小さくなる

有効質量は ħ² を d²E/dk² で割った値である。曲がりが急(d²E/dk² が大きい)ほど、有効質量は小さい。

問2

有効質量が4倍になると、実効状態密度 Nc は何倍になるか。

答えと解説を見る

答え:3. 8倍

Nc は有効質量の3/2乗に比例する。4の3/2乗は8なので、Nc は8倍になる。

出典

  1. Semiconductor Physics Lectures(有効質量、実効状態密度)(外部サイト)ペルージャ大学(検出器の講義資料)確認日:
  2. ECE 340 Lecture 8(有効質量と実効状態密度の表)(外部サイト)イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校確認日:
  3. Effective mass in semiconductors(外部サイト)ミッドスウェーデン大学確認日:
  4. CODATA Recommended Values of the Fundamental Physical Constants: 2018(NIST SP 961)(外部サイト)米国国立標準技術研究所(NIST)確認日: