要旨
- 国は2021年度以降、国内の半導体工場と研究開発に大型の支援を続けている。2024年11月には、2030年度までの7年間で10兆円以上の公的支援を行う枠組みを示した[1]。
- 支援を受けた工場が動き始めた。熊本県のJASMの第1工場は2024年12月に量産を始め、岩手県のキオクシアの北上工場の第2製造棟は2025年9月に稼働した。北海道のラピダスは、2027年の量産の開始を目指す[7][8][5]。
- 今後の論点は、国の支援がなくても続けられる事業になるか、工場の計画を技術の変化にどう合わせるか、地域の供給網をどう整えるかである。
市場の動き
経済産業省は、2021年度から2023年度の補正予算などで、半導体の基金を積み増してきた。2024年5月の資料では、経済安全保障の基金、先端半導体の基金、ポスト5Gの基金などの合計を、約1兆9,867億円としている。内訳は、経済安全保障の基金が5,754億円、先端半導体の基金が7,652億円(残高を含む)、ポスト5Gの基金などが6,461億円である[2]。
先端半導体の基金からは、国内に新しく工場を建てる計画に助成している。認定を受けた計画と助成の上限額は、熊本県菊陽町のロジック半導体の工場(JASMの第1工場)が4,760億円、同じくJASMの第2工場が7,320億円である。三重県四日市市などの3次元フラッシュメモリの計画には、2022年と2024年の認定を合わせて約2,429億円、広島県東広島市のDRAMの計画には合わせて約2,135億円の上限が示されている[2][3]。
2ナノの最先端のロジックを目指すラピダスには、ポスト5Gの基金から、研究開発の委託として支援している。経済産業省の2024年5月の資料では、2022〜2023年度に合わせて3,300億円、2024年度に前工程と後工程で合わせて5,900億円とされていた[2]。2026年度の6,315億円を加えると、2022年度からの支援の累計は2兆3,540億円になる[4]。
2024年11月には、2030年度までの7年間で10兆円以上の公的支援を行う「AI・半導体産業基盤強化フレーム」が示された。経済産業省は、この支援で10年間に50兆円を超える官民の投資を引き出し、約160兆円の経済波及効果を見込むとしている[1](図1)。
図1 国内の半導体工場への国の主な支援
単位:億円。期間:2022年度〜2026年度。マウスを重ねなくても、棒や点を選ぶ(タップ、クリック、キーボード)と数値が出ます。
ラピダスは2022〜2026年度の研究開発の委託の累計、そのほかは認定を受けた計画の助成の上限額です。四日市など(3次元フラッシュメモリ)と東広島(DRAM)は、2回の認定の合計です。
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出典:半導体に関する最近の政策動向について、半導体政策の動向(経済産業省)、ラピダスに6千億円追加支援(共同通信)、経済産業省ほか。確認
バリューチェーン
国の支援を受けた工場は、作る半導体の種類が分かれている(図2)。
熊本県のJASMは、台湾積体電路製造(TSMC)の子会社で、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソー、トヨタ自動車も出資する[6]。第1工場は2024年12月に量産を始め、イメージセンサーや自動車の部品に使う成熟した世代のロジック半導体を作る[7]。認定を受けた計画では、22/28ナノと12/16ナノのロジック半導体を、12インチのウェーハに換算して月5万5千枚作るとしていた[12]。第2工場の計画は、6ナノと12ナノのロジック半導体などを作るもので、投資額は約139億ドル、最初の出荷は2027年度の第4四半期を予定していた[11]。経済産業省は、12〜28ナノのロジック半導体を、産業に欠かせないのに国内に製造能力がなかったものとしていた[2]。
メモリでは、キオクシアとサンディスクが、岩手県の北上工場の第2製造棟を2025年9月に稼働させた。AIの普及で伸びるフラッシュメモリの需要に備え、218層の第8世代の3次元フラッシュメモリを作る。本格的な出荷は2026年前半に始める。第2製造棟の設備の投資には、2024年2月に認定を受けた計画の助成の一部を充てている[8]。マイクロンは、広島工場で、EUV露光を使う1γ世代のDRAMを作る計画を示し、最大5,000億円の投資を表明した。EUVの装置を2025年に入れ、2026年に生産を始める予定としていた[9]。
最先端のロジックでは、ラピダスが北海道千歳市に研究と製造の拠点を置き、2ナノのロジック半導体の開発と製造を目指す。試作のラインは2025年4月に動き始め、量産は2027年に始める予定である[5]。
工場が動くには、材料やガス、水を安定して受け取る仕組みが要る。経済産業省は、主要な部材の供給が途絶えると、装置、材料、半導体そのものの生産が難しくなるおそれがあるとして、生産基盤の強化を重要な課題としている[2]。たとえば、日本酸素ホールディングスのグループの大陽日酸は、2024年に、ラピダスの工場の敷地に、窒素、酸素、アルゴンを供給する拠点を開いた[10]。
図2 国の支援を受けた主な工場と、作る半導体(模式図)
- 熊本県(JASM)ロジック半導体。第1工場は2024年12月に量産
- 三重県・岩手県(キオクシア)3次元フラッシュメモリ。北上の第2製造棟は2025年9月に稼働
- 広島県(マイクロン)DRAM。EUV露光を使う1γ世代の計画
- 北海道(ラピダス)2ナノのロジック半導体。2027年の量産を目指す
図:国の支援を受けた主な工場の場所と、作る半導体の種類。工場ごとに、ロジック、メモリ、最先端のロジックと役割が分かれる。模式図、本サイトで作成日本企業の位置
下の表に、国内で新しい工場を建てる企業と、その工場を支える企業のうち、公開資料で確かめられたものをまとめた。
工場を建てる企業のうち、JASM、キオクシア、マイクロンメモリジャパンは掲載企業である。キオクシアは、サンディスクと20年以上の合弁を続け、3次元フラッシュメモリの開発と投資を共同で行っている[8]。ラピダスは非上場の企業のため、掲載企業の外の企業として載せた。2026年4月には、富士通と日本IBMが進める次世代のAI半導体の開発を国が支援することになり、その製造をラピダスが担う見込みと報じられた[4]。ソニーグループは、JASMに出資しているほか、TSMCとイメージセンサーで戦略的な協業を結ぶ基本合意をした。TSMCは、ソニーの熊本県合志市の新しい工場での生産ラインの設置を検討していると報じられている[6][7]。
工場を支える企業は、今回は、公開資料で特定の新しい工場への供給を確かめられた企業に絞った。装置や材料の企業の多くは、新しい工場にも製品を納めているとみられるが、取引先を公表していないことが多い。このため、表は工場への関わりを確かめられた企業だけを示すもので、関わる企業のすべてではない。
このページに載せる企業
国内で前工程・後工程の工場を新設・増設する企業(国の助成の対象を含む)と、その工場への装置・材料・ガスなどの供給を公表している企業を載せる。
掲載企業は工程ごとに証券コードの順です。掲載の基準は編集方針にあります。
論点と今後の注目点
発表元の見方
経済産業省は、AI・半導体産業基盤強化フレームで、支援の対象を選ぶ条件として、世界で競う戦略があること、サプライチェーンのチョークポイントになる製品や技術であること、国の長期の関与がなければ必要な投資が民間だけでは行われないことを挙げている[1]。
赤沢経済産業大臣は、2026年4月、ラピダスの新しい研究開発の拠点の開所の場で、2026年度の追加の支援を表明し、量産に向けた進み具合は順調だとした[4]。JASMは、2026年1〜3月期に、量産の開始後で初めての黒字となった[7]。
本サイトの見方
SemiCompassの見方です。投資の判断の材料ではありません。
1つ目の論点は、国の支援がなくても続けられる事業になるかである。JASMの黒字は、支援を受けた工場が事業として回り始めた例である。一方、ラピダスへの支援は研究開発の委託として累計で2兆円を超え、量産と顧客の獲得はこれからである。量産の後に、自らの売上と資金で投資を続けられるかが問われる。
2つ目の論点は、工場の計画を技術の変化にどう合わせるかである。JASMの第2工場は、認定を受けた計画では6〜12ナノを中心としていたが、その後、AI向けの需要を見込んで、3ナノ級の生産を2028年に始める計画と報じられている[11][7]。需要の変化に合わせて計画を変える柔軟さと、国の支援の条件との関係は、今後も注目しておきたい点である。
3つ目の論点は、地域の供給網と人材である。工場の近くに、ガスや水、部材を届ける拠点が要る。大陽日酸の千歳の拠点のように、工場に合わせた供給の拠点づくりが、各地でどこまで進むかが、工場の安定した稼働を左右する。人材についても、経済産業省は、地域ごとに企業、大学、自治体が連携して育成する仕組みを整えている[2]。九州、東北、中国、北海道で工場が同時に立ち上がる中で、技術者を各地で確保できるかも、注目しておきたい点である。
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