8. 通信・信号処理2 / 4ページ

速く、少ない電力で運ぶ:チップの間の高速通信

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. データは、チップの外でも運ばれる
  2. 並べて運ぶか、一本で運ぶか
  3. 二本の線で、逆の信号を送る
  4. 速くなるほど、信号はゆがむ
  5. 時計を合わせる
  6. 電力を抑える
  7. メモリとプロセッサの間
  8. このページのまとめ
  9. 関係する工程と用語
  10. 次に読む
  11. 理解度チェック

チップとチップの間、機器と機器の間で、データを速く運ぶ仕組みを説明する。並列から直列への変化、差動の信号、信号のゆがみと整え方、電力を抑える工夫、メモリやプロセッサとの関係を扱う。

並列と直列、差動の信号(模式図)

  1. 並列:多数の線直列:一本を速く同時に順番に並列と直列線の数か、一本の速さか
  2. 一方が上がるときもう一方は下がる差だけを見る差動の信号差をとると雑音が消える

データは、チップの外でも運ばれる

プロセッサが計算するには、メモリからデータを読み、結果を書き戻す必要がある。画像を処理するチップは、カメラのチップからデータを受け取る。データを運ぶ道は、チップの中だけでなく、チップとチップの間、基板の上、ケーブルの先にもある。

AIや動画のように、扱うデータが増えるほど、データを運ぶ速さが、機器全体の性能を決めるようになる。計算が速くても、データが届くのが遅ければ、待つ時間が増えてしまう。このページでは、データを速く、少ない電力で運ぶための考え方を見ていく。

並べて運ぶか、一本で運ぶか

データを運ぶ方法は、大きく二つある。一つは、並列である。複数の線を並べ、同時に複数の値を運ぶ。もう一つは、直列である。一本の道に、値を順番に流す。

並列は、線の数が多いほど、一度に運べる量も多い。ただし、線の間で、届く時間にずれが出やすい。速さを上げるほど、ずれが問題になる。そこで、速さを求める長い距離の通信では、直列が多く使われる。一本あたりを非常に速く動かして、全体の速さを確保する。

チップを積み重ねたり、近い距離に並べたりする方式では、並列の線を非常に多く、短く並べる方法が使われる。インターポーザやTSVは、このためのつなぎ方である。距離が短ければ、速さを上げなくても、線の数で量を稼げ、電力も少なくて済む。

二本の線で、逆の信号を送る

高速の通信で広く使われるのが、差動の信号である。一本の線に電圧を流す代わりに、二本の線を対にして、一方が上がるとき、もう一方を下げる。受ける側は、二本の線の差だけを見る。

この方法の利点は、雑音に強いことである。まわりから入る雑音は、二本の線に同じように加わる。二本の差をとれば、同じ雑音は打ち消される。信号の振れを小さくできるので、速く切り替えられ、電力も抑えられる。

速くなるほど、信号はゆがむ

信号を速く切り替えると、信号は配線を通るあいだに、なまってゆがむ。配線は、電気をためる性質や、電気の流れにくさを持つ。そのため、きれいな四角い波形で送っても、受ける側では、角が丸く、前後の信号と混じり合った形になる。

ゆがみを減らすために、いくつかの工夫がある。送る側で、ゆがむ分を見込んで、あらかじめ信号の形を変えておく。受ける側では、信号の形を整える回路を使う。さらに、基板やパッケージの配線を、電気の伝わり方が一定になるように設計する。こうした回路と配線の設計は、通信用の半導体で学んだ、高い周波数の扱い方と同じ考え方である。

時計を合わせる

直列の通信では、受ける側が、どの瞬間の信号を読み取ればよいかを知る必要がある。送る側と受ける側で、別々の時計を使っていると、少しずつずれていく。

そこで、受けた信号の変わり目から、読み取る時刻を取り出す回路が使われる。信号の変わり目が十分にあれば、受ける側は、自分の時計をそれに合わせられる。送る側では、変わり目が少なくなりすぎないよう、信号の並びを工夫する。

電力を抑える

データを運ぶ回路は、それ自体が電力を使う。速さを上げるほど、使う電力も増える。大量のデータを扱う機器では、運ぶための電力が、全体の消費電力の大きな部分を占めるようになる。

電力を抑えるには、いくつかの方法がある。運ぶ距離を短くする、信号の振れを小さくする、使わないときは回路を休ませる、といった方法である。近い距離は電圧を小さく、遠い距離は誤りが起きにくい強い信号で運ぶなど、距離に応じて方式を変えることもある。

メモリとプロセッサの間

プロセッサとメモリの間は、特に多くのデータが行き来する。メモリのチップを積み重ねたHBMは、プロセッサのすぐ近くに置かれ、非常に多くの線で、幅広くデータを運ぶ。これにより、速さを上げすぎなくても、大量のデータを運べる。

一方、基板の上で離れたメモリを使う方式では、線の数を減らし、一本を非常に速く動かす。どちらの方式を選ぶかは、速さ、電力、費用、置ける場所によって決まる。

このページのまとめ

データを運ぶ速さは、機器全体の性能を左右する。長い距離では、一本を非常に速く動かす直列が使われ、近い距離では、多数の線を並べる並列が使われる。差動の信号は雑音に強く、速く、少ない電力で運べる。速くなるほど信号がゆがむので、送る側と受ける側の回路や、配線の設計で整える。受ける側が読み取る時刻は、信号の変わり目から取り出す。

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

差動の信号が雑音に強い理由として、正しいものはどれか。

答えと解説を見る

答え:1. まわりから入る雑音は二本の線に同じように加わり、差をとると打ち消されるため

二本の線に、逆の信号を送る。まわりから入る雑音は二本に同じように加わるので、受ける側で差をとると、打ち消される。

問2

プロセッサとメモリの間を、多数の線で幅広くつなぐ方式の利点として、正しいものはどれか。

答えと解説を見る

答え:1. 一本あたりの速さを上げすぎなくても、大量のデータを運べる

線の数を多くして並列に運ぶと、一本あたりの速さを上げすぎなくても、大量のデータを運べる。