電力を操る:パワー半導体

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このページの目次
  1. 情報ではなく、電力を扱う半導体
  2. スイッチを速く入切して、電気の形を変える
  3. なぜスイッチで変換するのか
  4. 求められる性質は、論理回路とは違う
  5. 電気を縦に流す構造
  6. 材料の違い:シリコン、炭化ケイ素、窒化ガリウム
  7. 製造工程とのつながり
  8. このページのまとめ
  9. 関係する工程と用語
  10. 次に読む
  11. 理解度チェック

電気の形を変えたり、流れる量を調整したりするパワー半導体の役割と、スイッチを速く入切して電力を変換する仕組み、高い電圧に耐えるための縦型の構造と材料の違いを説明する。

パワー半導体の働きと形(模式図)

  1. 時間入の時間の割合を変えて並べる入切で電気の形を変える入の時間の割合と向きを変えると、平均して交流の代わりになる
  2. ソースゲートソース電圧を受け止める厚めの層ドレイン(裏側)電気を縦に流す構造表から裏へ流すので、チップの面積全体を通り道に使える
図:左は、スイッチを入切して作る電気の形。入の時間の割合を少しずつ変え、向きも切り替えると、平均すると波のように変わる電気(点線)になる。右は、電気をウェーハの表側から裏側へ縦に流す構造。厚めに作った層が、切のときに電圧を受け止める。模式図、本サイトで作成

情報ではなく、電力を扱う半導体

ここまでのページで見てきたトランジスタは、0と1の情報を扱うためのものだった。小さな電圧で、小さな電気を、とても速く切り替える。

半導体には、もう一つの大きな使い道がある。モーターを回す、電池を充電する、家庭のコンセントの交流を機器の中で使う直流に変える、といった、電力そのものを扱う使い道である。このための半導体を「パワー半導体」と呼ぶ。

パワー半導体は、電気自動車や電車のモーターの制御、太陽光発電の電気を送電網へ送る装置、エアコンや冷蔵庫、パソコンの電源など、電気を使う多くの機器に入っている。

スイッチを速く入切して、電気の形を変える

電気の形を変えるといっても、パワー半導体がしていることは、基本的には「スイッチの入と切」である。

たとえば、電池の直流から、モーターを回す交流を作る装置(インバーター)を考える。直流は、向きも大きさも一定の電気である。これをスイッチで細かく入れたり切ったりすると、電気が流れる時間と止まる時間が交互に並ぶ。入の時間を長くしたり短くしたりしながら並べ、向きも切り替えると、平均すると波のように大きさと向きが変わる電気になる。これが交流の代わりとして働く。

入と切の時間の割合を変えれば、平均の電圧も変えられる。電圧を上げ下げする装置も、同じ考え方で作られている。

なぜスイッチで変換するのか

電気の量を調整するだけなら、途中に抵抗を入れて、余分な電気を熱として捨てる方法もある。しかし、この方法では、捨てた分の電力が無駄になり、機器も熱くなる。

理想的なスイッチは、入のときには電気を抵抗なく通し、切のときにはまったく通さない。どちらの状態でも、スイッチ自身はほとんど電力を使わない。そのため、スイッチの入切で電力を変換すると、無駄を小さくできる。

実際のパワー半導体は理想どおりではない。入のときにもわずかな抵抗があり、通る電気の分だけ熱が出る。これを「導通損失」と呼ぶ。また、入から切、切から入へ切り替わる途中にも電力を失う。これを「スイッチング損失」と呼ぶ。この二つの損失を小さくすることが、パワー半導体の開発の中心になっている。

求められる性質は、論理回路とは違う

パワー半導体には、論理回路のトランジスタとは違う性質が求められる。

一つ目は、高い電圧に耐えることである。切のときには、スイッチの両端に大きな電圧がかかる。それでも電気を通さずに持ちこたえる必要がある。

二つ目は、大きな電気を少ない損失で通すことである。入のときの抵抗が小さいほど、熱が出にくい。

三つ目は、熱に強いことである。損失はゼロにはならないので、出た熱をうまく外へ逃がし、高い温度でも壊れずに動く必要がある。

このため、パワー半導体では、回路をどこまで細かくできるかよりも、耐えられる電圧、損失の小ささ、熱への強さが重視される。

電気を縦に流す構造

論理回路のMOSFETは、ウェーハの表面に沿って、ソースからドレインへ電気を横に流す。パワー半導体の多くは、これと違い、ウェーハの表側から裏側へ、電気を縦に流す形をしている。表側にソースとゲート、裏側にドレインを置く。

縦に流す形にすると、チップの面積全体を電気の通り道に使えるので、大きな電気を流しやすい。また、表と裏の間に、ドーパントを薄く入れた層を厚めに作ると、切のときにこの層が電圧を受け止め、高い電圧に耐えられる。ただし、この層を厚くするほど、入のときの抵抗は大きくなる。耐える電圧と、入のときの抵抗は、引っ張り合う関係にある。

パワー半導体の代表的な部品には、パワーMOSFET、IGBT、ダイオードがある。パワーMOSFETは、切り替えが速いのが特徴である。IGBTは、MOSFETの仕組みに別の構造を組み合わせ、高い電圧で大きな電気を流すのに向く。ダイオードは、電気の向きをそろえるのに使う。

材料の違い:シリコン、炭化ケイ素、窒化ガリウム

パワー半導体の材料は、シリコンが基本である。そのほかに、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を使うものもある。

炭化ケイ素や窒化ガリウムは、電子を動ける状態にするのに必要なエネルギーが、シリコンより大きい材料である。このような材料は、強い電圧をかけても壊れにくい。そのため、同じ電圧に耐えるのに、電圧を受け止める層を薄くでき、入のときの抵抗を小さくできる。高い温度でも動きやすく、速い切り替えにも向く。

一方で、結晶を作るのが難しく、ウェーハや製造の費用が高くなりやすい。どの材料を使うかは、扱う電圧や電気の大きさ、切り替えの速さ、費用によって選ばれる。

製造工程とのつながり

パワー半導体も、ウェーハの上に、成膜、リソグラフィ、エッチング、イオン注入などの工程で作る。電気を縦に流す形では、ウェーハを薄く削る工程や、裏側に電極を付ける工程も重要になる。

大きな電気を流し、熱を出すため、パッケージの役割も大きい。チップの熱を外へ逃がしやすく、大きな電気を流せる配線と、高い電圧に耐える絶縁が求められる。複数のチップを一つにまとめたものは「パワーモジュール」と呼ばれる。

このページのまとめ

パワー半導体は、電力を扱う半導体である。スイッチを速く入切し、入の時間の割合を変えることで、直流と交流の変換や電圧の調整を、少ない無駄で行う。高い電圧に耐え、損失が小さく、熱に強いことが求められ、多くは電気を縦に流す構造をしている。材料にはシリコンのほか、炭化ケイ素や窒化ガリウムも使われる。

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

パワー半導体が電気の形を変えるときの、基本的な動きとして正しいものはどれか。

答えと解説を見る

答え:2. スイッチを速く入切し、入の時間の割合を変える

パワー半導体は、スイッチを速く入切し、入の時間の割合や向きを変えることで、直流から交流を作ったり、電圧を調整したりする。

問2

パワー半導体で、入のときのわずかな抵抗によって出る損失を何と呼ぶか。

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答え:1. 導通損失

入のときにも抵抗があり、通る電気の分だけ熱が出る。これを導通損失と呼ぶ。切り替わる途中に失う電力は、スイッチング損失と呼ぶ。

問3

炭化ケイ素(SiC)などの材料がパワー半導体に使われる理由として、正しいものはどれか。

答えと解説を見る

答え:3. 強い電圧をかけても壊れにくく、電圧を受け止める層を薄くでき、入のときの抵抗を小さくできるから

炭化ケイ素や窒化ガリウムは、強い電圧をかけても壊れにくい。同じ電圧に耐えるのに層を薄くできるので、入のときの抵抗を小さくできる。一方で、結晶を作るのが難しく、費用は高くなりやすい。