融かして引き上げることが難しい化合物半導体を、基板の上に薄い結晶の膜として育てる「エピタキシャル成長」を説明する。引き上げにくい理由、膜の育て方、基板選びと原子の間隔、材料ごとの作り方を扱う。
エピタキシャル成長と、原子の間隔(模式図)
- 基板の並びにならって育つ層ごとに材料やドーパントを変えられる
- 間隔が違うと、欠陥が生まれる間にバッファ層をはさんで和らげる
図:左は、熱した基板の上に原料のガスを流し、基板の原子の並びにならって膜の原子が積もる様子。右は、膜と基板で原子の並ぶ間隔が違う場合。ひずみがたまり、並びの合わない場所(転位)が生まれる。原子の大きさや間隔の比は実際と異なる。模式図、本サイトで作成引き上げで作れる結晶と、作りにくい結晶
シリコンの単結晶は、るつぼで融かしたシリコンに種結晶を浸し、ゆっくり回しながら引き上げて育てる(「シリコンと単結晶」のページ)。一度に大きく、欠陥の少ない結晶ができるので、大きなウェーハを安く作れる。
ところが、化合物半導体の多くは、この方法がそのままでは使えない。そこで、素子として働く部分を、基板の上に薄い結晶の膜として育てる方法が広く使われる。下の結晶の原子の並びにならって、上に新しい結晶を積み上げていく育て方を「エピタキシャル成長」と呼ぶ。このページでは、化合物半導体を例に、この育て方を説明する。
なぜ、融かして引き上げにくいのか
理由の一つは、成分の蒸発しやすさの違いである。たとえばガリウムヒ素では、ヒ素がガリウムよりずっと蒸発しやすい。融かすと、ヒ素だけが逃げていき、成分の割合がずれてしまう。
もう一つは、融かすこと自体が難しい材料があることである。窒化ガリウムは、ふつうの圧力では融ける前に分解し、窒素が抜けてしまう。炭化ケイ素は、ふつうの圧力では液体にならず、固体から直接気体になる(昇華する)。どちらも、シリコンのように融液を作って引き上げることができない。
ガリウムヒ素やインジウムリンのように、蒸発を抑える工夫(融液の表面を別の液体で覆うなど)をすれば、融液から結晶を育てられる材料もある。ただし、シリコンのように大きく欠陥の少ない結晶を作るのは難しい。
基板と、その上に育てる膜
そこで、多くの化合物半導体の部品は、二段に分けて作る。まず、土台となる結晶の板(基板)を、その材料に合った方法で作る。次に、その上に、素子として働く薄い結晶の膜を、エピタキシャル成長で育てる。
膜で育てると、層ごとに材料の割合や、混ぜるドーパントの量を変えられる。発光ダイオードや半導体レーザー、高い周波数で動くトランジスタは、性質の違う薄い層を何層も重ねた構造で働く。こうした構造は、引き上げた結晶を切るだけでは作れず、膜を一層ずつ育てるエピタキシャル成長だからこそ作れる。
膜の育て方
膜の育て方には、主に三つがある。
一つ目は、有機金属気相成長(MOCVD)である。金属の原子を含む有機化合物のガスと、窒素やヒ素などを含むガスを、熱した基板の上に流す。ガスが基板の表面で分かれ、必要な原子が結晶として積もっていく。多くの基板を一度に処理でき、発光ダイオードなどの量産で広く使われる。
二つ目は、分子線エピタキシー(MBE)である。とても高い真空の中で原料を加熱して蒸発させ、原子や分子の流れを基板に当てて積もらせる。原子の層を一層ずつ制御できるほど精密で、研究や、極めて薄い層が必要な部品に使われる。
三つ目は、ハイドライド気相成長(HVPE)である。塩素を含むガスを使う方法で、膜を速く厚く育てられる。窒化ガリウムの厚い結晶を育て、それを基板として使うためにも用いられる。
炭化ケイ素の膜は、ケイ素を含むガスと炭素を含むガスを、熱した炭化ケイ素の基板に流して育てる。シリコンのエピタキシャル成長と同じく、化学気相成長(CVD)の一種である。
基板選び:原子の間隔をそろえる
エピタキシャル成長では、膜の原子が、下の基板の原子の並びにならって並ぶ。そのため、基板と膜で原子の並ぶ間隔(格子定数)が近いほど、きれいな結晶になる。間隔がそろっていることを「格子整合」と呼ぶ。
間隔が違うと、膜の中にひずみがたまり、ある厚さを超えると、結晶の並びが乱れた線状の欠陥(転位)が生まれる。欠陥は、電子と正孔が熱になって消える場所になり、発光の効率や部品の寿命を下げる。
基板と膜で、温めたときの伸び方(熱膨張)が違うことも問題になる。高い温度で膜を育てたあと冷やすと、縮み方の差でウェーハが反ったり、膜が割れたりする。
同じ材料の基板が手に入りにくい場合は、別の材料の基板を使い、間に性質を少しずつ変えた層(バッファ層)をはさんで、ひずみや欠陥を和らげる。窒化ガリウムをサファイアやシリコンの基板の上に育てるときに、この工夫が欠かせない。
材料ごとの作り方
炭化ケイ素は、昇華させた原料を種結晶の上で再び固体にする方法(昇華法)で結晶を育て、基板にする。その上に、CVDで素子の層を育てる。
窒化ガリウムは、サファイア、炭化ケイ素、シリコンなどの別の材料の基板の上に、MOCVDで育てることが多い。HVPEなどで育てた窒化ガリウムの基板を使う方法もある。
ガリウムヒ素やインジウムリンは、蒸発を抑える工夫をした融液から結晶を育てて基板にし、その上にMOCVDやMBEで素子の層を重ねる。
シリコンでも使われる
エピタキシャル成長は、化合物半導体だけのものではない。シリコンでも、ウェーハの表面に品質の高い膜を育てたエピタキシャルウェーハが使われる(「ウェーハの表面を整える」のページ)。パワー半導体では、高い電圧を受け止めるための、ドーパントの少ない厚い層を、エピタキシャル成長で作る。
このページのまとめ
化合物半導体の多くは、成分の蒸発しやすさの違いや、融ける前の分解・昇華のため、シリコンのように融かして引き上げることが難しい。そこで、基板の上に薄い結晶の膜を育てるエピタキシャル成長が使われる。育て方にはMOCVD、MBE、HVPEなどがあり、基板と膜の原子の間隔や熱膨張をそろえる工夫が、結晶の品質を決める。
理解度チェック
本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。
問1
窒化ガリウムを、シリコンのように融かして引き上げることが難しい理由はどれか。
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答え:1. ふつうの圧力では、融ける前に分解して窒素が抜けるため
窒化ガリウムは、ふつうの圧力では融ける前に分解し、窒素が抜けてしまう。そのため、融液を作って引き上げることができない。
問2
エピタキシャル成長で、基板と膜の原子の並ぶ間隔が大きく違うと、何が起こりやすいか。
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答え:2. 膜の中にひずみがたまり、転位などの欠陥が生まれる
膜の原子は基板の並びにならって並ぶため、間隔が違うとひずみがたまる。ある厚さを超えると、転位などの欠陥が生まれる。
問3
とても高い真空の中で、原料の原子や分子の流れを基板に当てて、原子の層を一層ずつ制御して育てる方法はどれか。
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答え:3. 分子線エピタキシー(MBE)
分子線エピタキシーは、高い真空の中で原料を蒸発させ、原子や分子の流れを基板に当てて育てる方法で、層を非常に精密に制御できる。