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化合物半導体はどう作るか:エピタキシャル成長

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 引き上げで作れる結晶と、作りにくい結晶
  2. なぜ、融かして引き上げにくいのか
  3. 基板と、その上に育てる膜
  4. 膜の育て方
  5. 基板選び:原子の間隔をそろえる
  6. 材料ごとの作り方
  7. シリコンでも使われる
  8. このページのまとめ
  9. 関係する工程と用語
  10. 次に読む
  11. 理解度チェック

融かして引き上げることが難しい化合物半導体を、基板の上に薄い結晶の膜として育てる「エピタキシャル成長」を説明する。引き上げにくい理由、膜の育て方、基板選びと原子の間隔、材料ごとの作り方を扱う。

エピタキシャル成長と、原子の間隔(模式図)

  1. 原料のガス膜熱した基板基板の並びにならって育つ層ごとに材料やドーパントを変えられる
  2. 転位膜基板間隔が違うと、欠陥が生まれる間にバッファ層をはさんで和らげる
図:左は、熱した基板の上に原料のガスを流し、基板の原子の並びにならって膜の原子が積もる様子。右は、膜と基板で原子の並ぶ間隔が違う場合。ひずみがたまり、並びの合わない場所(転位)が生まれる。原子の大きさや間隔の比は実際と異なる。模式図、本サイトで作成

引き上げで作れる結晶と、作りにくい結晶

シリコンの単結晶は、るつぼで融かしたシリコンに種結晶を浸し、ゆっくり回しながら引き上げて育てる(「シリコンと単結晶」のページ)。一度に大きく、欠陥の少ない結晶ができるので、大きなウェーハを安く作れる。

ところが、化合物半導体の多くは、この方法がそのままでは使えない。そこで、素子として働く部分を、基板の上に薄い結晶の膜として育てる方法が広く使われる。下の結晶の原子の並びにならって、上に新しい結晶を積み上げていく育て方を「エピタキシャル成長」と呼ぶ。このページでは、化合物半導体を例に、この育て方を説明する。

なぜ、融かして引き上げにくいのか

理由の一つは、成分の蒸発しやすさの違いである。たとえばガリウムヒ素では、ヒ素がガリウムよりずっと蒸発しやすい。融かすと、ヒ素だけが逃げていき、成分の割合がずれてしまう。

もう一つは、融かすこと自体が難しい材料があることである。窒化ガリウムは、ふつうの圧力では融ける前に分解し、窒素が抜けてしまう。炭化ケイ素は、ふつうの圧力では液体にならず、固体から直接気体になる(昇華する)。どちらも、シリコンのように融液を作って引き上げることができない。

ガリウムヒ素やインジウムリンのように、蒸発を抑える工夫(融液の表面を別の液体で覆うなど)をすれば、融液から結晶を育てられる材料もある。ただし、シリコンのように大きく欠陥の少ない結晶を作るのは難しい。

基板と、その上に育てる膜

そこで、多くの化合物半導体の部品は、二段に分けて作る。まず、土台となる結晶の板(基板)を、その材料に合った方法で作る。次に、その上に、素子として働く薄い結晶の膜を、エピタキシャル成長で育てる。

膜で育てると、層ごとに材料の割合や、混ぜるドーパントの量を変えられる。発光ダイオードや半導体レーザー、高い周波数で動くトランジスタは、性質の違う薄い層を何層も重ねた構造で働く。こうした構造は、引き上げた結晶を切るだけでは作れず、膜を一層ずつ育てるエピタキシャル成長だからこそ作れる。

膜の育て方

膜の育て方には、主に三つがある。

一つ目は、有機金属気相成長(MOCVD)である。金属の原子を含む有機化合物のガスと、窒素やヒ素などを含むガスを、熱した基板の上に流す。ガスが基板の表面で分かれ、必要な原子が結晶として積もっていく。多くの基板を一度に処理でき、発光ダイオードなどの量産で広く使われる。

二つ目は、分子線エピタキシー(MBE)である。とても高い真空の中で原料を加熱して蒸発させ、原子や分子の流れを基板に当てて積もらせる。原子の層を一層ずつ制御できるほど精密で、研究や、極めて薄い層が必要な部品に使われる。

三つ目は、ハイドライド気相成長(HVPE)である。塩素を含むガスを使う方法で、膜を速く厚く育てられる。窒化ガリウムの厚い結晶を育て、それを基板として使うためにも用いられる。

炭化ケイ素の膜は、ケイ素を含むガスと炭素を含むガスを、熱した炭化ケイ素の基板に流して育てる。シリコンのエピタキシャル成長と同じく、化学気相成長(CVD)の一種である。

基板選び:原子の間隔をそろえる

エピタキシャル成長では、膜の原子が、下の基板の原子の並びにならって並ぶ。そのため、基板と膜で原子の並ぶ間隔(格子定数)が近いほど、きれいな結晶になる。間隔がそろっていることを「格子整合」と呼ぶ。

間隔が違うと、膜の中にひずみがたまり、ある厚さを超えると、結晶の並びが乱れた線状の欠陥(転位)が生まれる。欠陥は、電子と正孔が熱になって消える場所になり、発光の効率や部品の寿命を下げる。

基板と膜で、温めたときの伸び方(熱膨張)が違うことも問題になる。高い温度で膜を育てたあと冷やすと、縮み方の差でウェーハが反ったり、膜が割れたりする。

同じ材料の基板が手に入りにくい場合は、別の材料の基板を使い、間に性質を少しずつ変えた層(バッファ層)をはさんで、ひずみや欠陥を和らげる。窒化ガリウムをサファイアやシリコンの基板の上に育てるときに、この工夫が欠かせない。

材料ごとの作り方

炭化ケイ素は、昇華させた原料を種結晶の上で再び固体にする方法(昇華法)で結晶を育て、基板にする。その上に、CVDで素子の層を育てる。

窒化ガリウムは、サファイア、炭化ケイ素、シリコンなどの別の材料の基板の上に、MOCVDで育てることが多い。HVPEなどで育てた窒化ガリウムの基板を使う方法もある。

ガリウムヒ素やインジウムリンは、蒸発を抑える工夫をした融液から結晶を育てて基板にし、その上にMOCVDやMBEで素子の層を重ねる。

シリコンでも使われる

エピタキシャル成長は、化合物半導体だけのものではない。シリコンでも、ウェーハの表面に品質の高い膜を育てたエピタキシャルウェーハが使われる(「ウェーハの表面を整える」のページ)。パワー半導体では、高い電圧を受け止めるための、ドーパントの少ない厚い層を、エピタキシャル成長で作る。

このページのまとめ

化合物半導体の多くは、成分の蒸発しやすさの違いや、融ける前の分解・昇華のため、シリコンのように融かして引き上げることが難しい。そこで、基板の上に薄い結晶の膜を育てるエピタキシャル成長が使われる。育て方にはMOCVD、MBE、HVPEなどがあり、基板と膜の原子の間隔や熱膨張をそろえる工夫が、結晶の品質を決める。

理解度チェック

本文の内容から答えられる問いです。答えを選ぶと、正しいかどうかと解説が出ます。

問1

窒化ガリウムを、シリコンのように融かして引き上げることが難しい理由はどれか。

答えと解説を見る

答え:1. ふつうの圧力では、融ける前に分解して窒素が抜けるため

窒化ガリウムは、ふつうの圧力では融ける前に分解し、窒素が抜けてしまう。そのため、融液を作って引き上げることができない。

問2

エピタキシャル成長で、基板と膜の原子の並ぶ間隔が大きく違うと、何が起こりやすいか。

答えと解説を見る

答え:2. 膜の中にひずみがたまり、転位などの欠陥が生まれる

膜の原子は基板の並びにならって並ぶため、間隔が違うとひずみがたまる。ある厚さを超えると、転位などの欠陥が生まれる。

問3

とても高い真空の中で、原料の原子や分子の流れを基板に当てて、原子の層を一層ずつ制御して育てる方法はどれか。

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答え:3. 分子線エピタキシー(MBE)

分子線エピタキシーは、高い真空の中で原料を蒸発させ、原子や分子の流れを基板に当てて育てる方法で、層を非常に精密に制御できる。