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電気自動車とパワー半導体

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 要旨
  2. 市場の動き
  3. バリューチェーン
  4. 日本企業の位置
  5. 論点と今後の注目点
  6. 関係する工程・用語・学ぶ
  7. 出典

要旨

  • 2025年の世界の電気自動車の販売は2,000万台を超え、新車の約4分の1を占めた[1]。電気自動車の電力を変換するインバータなどに使うパワー半導体の市場は、2035年に2025年の約2倍に広がると予測されている[2]。
  • 伸びの中心は、炭化ケイ素(SiC)などを使う次世代のパワー半導体である。SiCでは、ウェーハを6インチから8インチに大きくする投資が国内外で進む[2][4][5]。
  • 日本企業は、SiCの素子とモジュール、エピタキシャルウェーハで役割を担う。電気自動車の需要の波と、中国の企業の参入による価格の競争が、今後の論点になる[2]。

市場の動き

国際エネルギー機関(IEA)によると、2025年の世界の電気自動車の販売台数は2,000万台を超え、前年から約20%増えた。新車の販売のおよそ4分の1にあたる。2026年は約2,300万台、新車の28%になる見通しである[1]。地域別では、2025年に中国で新車の販売の55%近く、欧州で28%を占め、米国は10%弱だった。2026年には、中国で60%近く、欧州で3台に1台に達する見通しである[1]。

パワー半導体は、電気を交流と直流に変えたり、電圧を変えたりする素子である。電気自動車では、電池の電力でモーターを動かすインバータや、充電の機器に使われる。

富士経済の予測によると、パワー半導体の世界市場は、2025年の3兆7,550億円から、2035年に7兆3,495億円へ広がる(2025年比+95.7%)。このうち、シリコンを使う従来のパワー半導体は3兆2,182億円から4兆8,418億円に、SiCや窒化ガリウム(GaN)などの次世代のパワー半導体は5,368億円から2兆5,077億円に広がる[2](図1)。

次世代の中では、SiCのパワーモジュールが2025年の3,506億円から2035年に1兆8,749億円と、5倍あまりに広がる。富士経済は、2035年には電気自動車の約7割で、モーターを動かすインバータにSiCが使われると見込む[2]。GaNのパワー半導体は、2025年の585億円から2035年に3,169億円へ広がる予測である。酸化ガリウムを使うものも、2027年ごろから量産が始まり、2035年に149億円の規模になると見込まれている[2]。

一方、2025年は電気自動車の需要が弱く、欧米と日本のパワー半導体のメーカーの業績に響いた[2]。需要の伸びには波がある。

図1 パワー半導体の世界市場

単位:億円。期間:2025年と2035年(予測)。マウスを重ねなくても、棒や点を選ぶ(タップ、クリック、キーボード)と数値が出ます。

020,00040,00060,00080,0002535予合計 7兆3,495億円020,00040,00060,00080,0002025年2035年予測合計 7兆3,495億円

2035年は予測です。次世代のパワー半導体は、SiC、GaN、酸化ガリウムなどを使うものです。

  • シリコンのパワー半導体
  • 次世代のパワー半導体(SiC、GaNなど)
表で見る
図1 パワー半導体の世界市場(億円)
期シリコンのパワー半導体(億円)次世代のパワー半導体(SiC、GaNなど)(億円)
2025年32,1825,368
2035年(予測)48,41825,077

出典:パワー半導体世界市場、2035年は7兆円超え(富士経済の調査)、EE Times Japan。確認

バリューチェーン

SiCのパワー半導体は、いくつかの段階を経て電気自動車に載る(図2)。まず、SiCの結晶から基板(ウェーハ)を作る。次に、基板の上に、性質をそろえた薄いSiCの層を成長させ、エピタキシャルウェーハにする。その上に素子を作り、複数の素子を組み合わせてモジュールにし、インバータに組み込む。

最初の段階の基板では、ウェーハを大きくする動きが進む。ドイツのインフィニオン・テクノロジーズは、2026年10月、米国のウルフスピードから8インチのSiCウェーハを複数年にわたって買う契約を結んだ。8インチのウェーハは6インチより面積が約1.8倍で、1枚から取れるチップの数を増やせる。業界では、製造のコストを下げるため、6インチから8インチへの移行が進んでいる[5]。インフィニオンは、2026年8月の時点で、認定した基板の供給元が6社を超え、複数の会社から基板を買う体制をとっている[5]。

国内でも、素子の工場への投資が進む。三菱電機は、熊本県菊池市に約1,000億円を投じた新しい工場棟を完成させ、電気自動車向けを中心に、8インチのSiCウェーハを使う製品を作る。新しい工場棟は2025年11月に稼働する予定とされた[4]。ロームと東芝デバイス&ストレージは、共同でパワー半導体の生産を増やす計画で、2023年12月に経済産業省の認定を受けた。事業費は3,883億円(ローム側が約2,892億円、東芝側が約991億円)、助成の上限は事業費の3分の1にあたる1,294億円で、ロームのグループの宮崎の工場でSiCのパワー半導体とSiCのウェーハを、東芝のグループの石川県の工場でシリコンのパワー半導体を作る[3]。

経済産業省は、経済安全保障推進法にもとづく半導体の供給の確保の支援で、SiCを中心とするパワー半導体を対象に挙げている。パワー半導体の計画には、事業の規模の目安を約2,000億円とし、10年以上の継続的な生産などを条件にしている[10]。

図2 SiCのパワー半導体が電気自動車に載るまで(模式図)

  1. 1. 基板SiCのウェーハ。6インチから8インチへ大きくなる
  2. 2. エピタキシャルウェーハ基板の上に、薄いSiCの層を成長させる
  3. 3. 素子とモジュール素子を作り、複数を組み合わせてモジュールにする
  4. 4. インバータ電池の直流を交流に変え、モーターを動かす
図:SiCの基板の上に薄い層を成長させてエピタキシャルウェーハにし、素子を作ってモジュールにまとめ、インバータに組み込む。寸法は簡単にした模式図、本サイトで作成

日本企業の位置

日本企業は、SiCのエピタキシャルウェーハから、素子、モジュールまでの段階で役割を担う。下の表に、公開資料で確かめられた企業を、段階ごとにまとめた。

基板とエピタキシャルウェーハの段階では、レゾナックがSiCのエピタキシャルウェーハを手がける[9]。ロームも、宮崎の工場でSiCのウェーハを作る計画である[3]。

素子とモジュールの段階では、三菱電機、富士電機、ロームがパワー半導体を作る。三菱電機のパワーデバイスは、電気自動車、産業機器、再生可能エネルギー、鉄道車両の電力変換の機器に使われる。同社のセミコンダクター・デバイスの区分の外部顧客向けの売上高は、2026年3月期に2,589.3億円である[6]。富士電機は、産業用と自動車用のパワー半導体を手がけ、製品は車載のインバータなどに組み込まれる。2026年3月期の半導体のセグメントの外部顧客への売上高は2,342.5億円で、連結売上高の19.1%を占める[7]。ロームは、パワーデバイスを含む半導体素子を作り、半導体素子は2026年3月期の売上高の42.7%を占める。同期の顧客の所在地別の売上高は、中国が1,466.0億円で、日本の1,451.4億円を上回った[8]。

表には、構図を示すために、掲載企業の外から、基板を供給するウルフスピードと、パワー半導体を作るインフィニオン・テクノロジーズを載せた。表は関わりを示すもので、売上の大きさや順位を示すものではない。

このページに載せる企業

車載のパワー半導体のデバイス、基板(SiC、GaNなど)、製造装置・材料を作っていることを、公開資料で確かめられる企業を載せる。

SiCの基板とエピタキシャルウェーハ工程:材料・シリコンウェーハの製造

  • レゾナック・ホールディングス

    SiCのエピタキシャルウェーハを手がける。[9]

  • ウルフスピード米国

    SiCのウェーハを作り、インフィニオンに8インチの基板を供給する契約を結んだ。[5]

パワー半導体の素子とモジュール

  • 三菱電機

    電気自動車などに使うパワーデバイスを作る。熊本県に8インチSiCの工場棟を建てた。[4][6]

  • 富士電機

    産業用と自動車用のパワー半導体を作り、製品は車載のインバータなどに使われる。[7]

  • ローム

    パワーデバイスを作る。東芝と共同で、SiCのパワー半導体とウェーハの増産を進める。[3][8]

  • インフィニオン・テクノロジーズドイツ

    パワー半導体を作る。ウルフスピードから8インチのSiCウェーハを調達する。[5]

掲載企業は工程ごとに証券コードの順です。掲載の基準は編集方針にあります。

論点と今後の注目点

発表元の見方

富士経済は、SiCは電気自動車のインバータに加え、大規模な蓄電や太陽光発電の機器にも広がるとする。一方で、中国のメーカーの参入で、価格の競争が激しくなると見ている[2]。GaNは、車載の充電器やサーバーの電源などに広がるとしている[2]。

インフィニオン・テクノロジーズは、AIのデータセンターの電源も、SiCの需要の源になり始めたと説明している[5]。

本サイトの見方

SemiCompassの見方です。投資の判断の材料ではありません。

1つ目の論点は、電気自動車の需要の波と、投資の時期の合わせ方である。2035年に向けた市場の拡大は大きい一方、2025年のように需要が弱まる年もある。8インチの工場は投資の額が大きいため、需要が伸びる時期と、工場が本格的に動く時期がずれると、稼働率が上がらないまま費用が先に出る。

2つ目の論点は、ウェーハの大型化と価格の競争である。8インチへの移行は、チップ1つあたりのコストを下げる。同じ移行を中国の企業も進めれば、SiCの素子の価格は下がりやすい。日本企業にとっては、コストで競うだけでなく、品質や信頼性、モジュールとしての性能で差をつけられるかが問われる。

3つ目の論点は、国内の企業の連携である。ロームと東芝の計画のように、国の支援を受けて、複数の企業が生産を分担する動きがある。表のとおり、国内にはパワー半導体を作る企業が複数あり、それぞれが工場への投資を進めている。8インチの工場のように1つの投資の額が大きくなるほど、1社だけで需要の波を受け止めるのは難しくなる。連携や役割の分担がさらに進むかは、注目しておきたい点である。

このページは、公開資料にもとづいて関係する企業を整理したものです。特定の企業の株式の売買を勧めるものではありません。詳しくは免責事項をご覧ください。

出典

  1. Global EV Outlook 2026 Executive summary(外部サイト)国際エネルギー機関(IEA)確認日:
  2. パワー半導体世界市場、2035年は7兆円超え 酸化ガリウムも一定規模に(外部サイト)EE Times Japan(富士経済の調査)公表日:確認日:
  3. ロームと東芝デバイス&ストレージが共同で進める「パワー半導体の供給確保計画」が経済産業省より認定(外部サイト)東芝デバイス&ストレージ公表日:確認日:
  4. 【詳報】三菱電機、菊池市に1千億円新工場棟 EV向けパワー半導体生産へ(外部サイト)熊本日日新聞公表日:確認日:
  5. InfineonがWolfspeedと契約拡大、8インチSiC調達強化:コスト競争力に磨き(外部サイト)EE Times Japan公表日:確認日:
  6. 有価証券報告書(2026年3月期)(外部サイト)三菱電機公表日:確認日:
  7. 有価証券報告書(2026年3月期)(外部サイト)富士電機公表日:確認日:
  8. 有価証券報告書(2026年3月期)(外部サイト)ローム公表日:確認日:
  9. 有価証券報告書(2025年12月期)(外部サイト)レゾナック・ホールディングス公表日:確認日:
  10. 半導体(経済安全保障推進法に基づく特定重要物資)(外部サイト)経済産業省確認日: