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材料の地政学

公開日:作成者:hysd(SemiCompass運営者)

このページの目次
  1. 要旨
  2. 市場の動き
  3. バリューチェーン
  4. 日本企業の位置
  5. 論点と今後の注目点
  6. 関係する工程・用語・学ぶ
  7. 出典

要旨

  • 2025年の世界の半導体材料の市場は、過去最高の732億ドル(前年比+6.8%)だった。材料を最も多く使う地域は台湾で、中国、韓国が続く[1]。日本国内の材料の市場は、2024年に主要な地域で唯一縮んだ[2]。
  • 日本の材料メーカーは、シリコンウェーハ、フォトレジスト、マスクブランクス、高純度の薬品とガスを供給している。経済産業省は、日本の製造装置と材料を、半導体のサプライチェーンの「チョークポイント」と位置づける[3]。
  • 材料は、各国の輸出管理の対象になってきた。日本の韓国向けの3品目(2019年)、中国のガリウム・ゲルマニウム(2023年)など、材料の流れは政策で変わる[4][6]。日本は、半導体の材料と原料を、経済安全保障の対象に加えている[8]。

市場の動き

国際半導体製造装置材料協会(SEMI)によると、2025年の世界の半導体材料の市場は732億ドルで、前年比+6.8%と過去最高だった。このうち、ウェーハの上に回路を作る前工程の材料は458億ドル(+5.4%)、チップを組み立てる後工程の材料は274億ドル(+9.3%)だった[1]。前工程の材料が市場の6割あまりを占めるが、2025年の伸びは後工程の材料のほうが大きかった。

地域別では、台湾が217億ドルで16年続けて最大の市場だった。中国が156億ドルで2位となり、2桁の伸びを示した。韓国は112億ドルで3位だった[1]。材料の市場は、材料を使う工場のある地域で数えるため、半導体の工場が集まる東アジアに大きく偏る(図1)。

一方、日本国内の材料の市場は、2024年に65億ドル(前年比−3.2%)で5位だった。この年に市場が縮んだのは、主要な地域の中で日本だけだった[2]。国内の工場で使う材料は少ないが、日本の材料メーカーは、海外の工場にも材料を供給している。

国内でも、生産能力を増やす動きがある。東京応化工業は、福島県の郡山工場に、フォトレジストの新しい製造棟を完成させた。EUV用やArF用のレジストを作り、2026年11月に稼働する予定で、投資額は約230億円である[13]。関東電化工業は、エッチングに使う特殊ガス(C4F6)の生産量を1.5倍に増やす計画を、2023年に明らかにしている[17]。

図1 地域別の半導体材料の市場(2025年)

単位:10億ドル。期間:2025年。マウスを重ねなくても、棒や点を選ぶ(タップ、クリック、キーボード)と数値が出ます。

0102030台湾中国韓国その他の地域0102030台湾中国韓国その他の地域

その他の地域は、市場の合計(732億ドル)から上位3地域を引いた値で、日本、北米、欧州などを含みます。材料を使う工場のある地域で数えています。

表で見る
図1 地域別の半導体材料の市場(2025年)(10億ドル)
名前材料の市場(10億ドル)
台湾21.7
中国15.6
韓国11.2
その他の地域24.7

出典:2025年の世界半導体材料市場、過去最高の732億ドルに到達、SEMI。確認

バリューチェーン

半導体の材料は、工程ごとに種類が分かれる。回路を作る土台となるシリコンウェーハ、回路の形を写すフォトレジストとマスクの材料、不要な部分を削るエッチングのガスや洗浄の薬品、表面を平らにする研磨の材料(CMPスラリー)、そして後工程の封止材や基板の材料である(図2)。

これらの材料には、さらに上流の原料がある。経済産業省は、経済安全保障推進法の特定重要物資として半導体を指定し、供給を確保するための支援の対象に、半導体の材料・部品と、原料を含めた。原料として挙げられているのは、黄リンとその誘導品、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、蛍石とその誘導品である[8]。

原料の調達には、地政学の影響が表れやすい。経済産業省の2022年の資料によると、日本が輸入するネオン、クリプトン、キセノンの約6%は、ロシアとウクライナの地域からだった[9]。信越化学工業も、有価証券報告書で、仕入れ先の国の貿易政策が変わると、調達や価格に影響が出るおそれがあるとしている。同社は、原料の調達先を分散して、この影響を抑えるとしている[10]。

材料そのものも、輸出管理の対象になってきた。日本は2019年7月、韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目について、包括的な許可の対象から外し、輸出ごとの許可を求めるようにした[4]。この運用は、2023年3月に見直され、包括的な許可に戻った[5]。

中国は、2023年8月から、ガリウムとゲルマニウムの関連品目の輸出に許可を求めるようにした[6]。さらに中国は、2025年11月から、中重希土類の一部や、人工ダイヤモンドとその製造装置などを、輸出管理の対象に加えた[7]。

図2 半導体の材料と、その上流の原料(模式図)

  1. 1. ウェーハシリコンの単結晶を薄く切り、表面を磨く
  2. 2. 露光の材料マスクブランクスとフォトレジスト
  3. 3. エッチングと洗浄特殊ガスと、高純度のフッ化水素などの薬品
  4. 上流の原料ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、蛍石、黄リンなど
図:工程ごとに使う主な材料と、その上流の原料の例。原料の例は、経済産業省が経済安全保障推進法で供給の確保を支援する対象に挙げたもの。模式図、本サイトで作成

日本企業の位置

日本企業は、前工程の材料の多くの段階で、供給を担っている。下の表に、公開資料で半導体向けの材料を作っていることを確かめた企業を、工程ごとにまとめた。

ウェーハでは、信越化学工業とSUMCOが、半導体用のシリコンウェーハを作る[10][11]。信越化学工業の電子材料事業の外部顧客向けの売上高は、2026年3月期に1兆157億円で、連結売上高の39.5%を占める[10]。SUMCOは、表面を鏡面に仕上げたウェーハと、その上に薄い単結晶の層を成長させたエピタキシャルウェーハを、メモリーやロジックのメーカーに供給する[11]。露光では、東京応化工業がEUV用などのフォトレジストを作り、HOYAが半導体用のマスクブランクスを作る[12][14]。信越化学工業も、フォトレジストとマスクブランクスを手がける[10]。

エッチングと洗浄では、ステラケミファが高純度のフッ化水素を、関東電化工業がエッチング用の特殊ガスを、日本酸素ホールディングスのグループが半導体用の特殊ガスを供給する[16][17][18]。ステラケミファは、半導体用の高純度フッ化水素を、北九州、三宝(堺市)、シンガポールの3拠点で、年に約10万5千トン作れる体制を持つ[16]。関東電化工業は、韓国と中国の拠点を含めて投資を進めている[17]。日本酸素ホールディングスのグループの大陽日酸は、2024年に、北海道千歳市のラピダスの工場の敷地に、窒素や酸素などを供給する拠点を開いた[18]。研磨と後工程では、レゾナックがCMPスラリーや高純度ガス、封止材などを手がける[15]。

表は、半導体の材料を作っていることを示すもので、それぞれの材料の世界での順位や売上の大きさを示すものではない。また、ここに挙げた企業の多くは、半導体以外の素材や化学品も手がけている。

このページに載せる企業

輸出管理や供給の偏りが公的機関の資料か報道で取り上げられた半導体材料(フォトレジスト、高純度のガス、ウェーハなど)を製造・供給していることを、公開資料で確かめられる企業を載せる。

シリコンウェーハ工程:材料・シリコンウェーハの製造

  • SUMCO

    半導体用のシリコンウェーハ(鏡面のウェーハとエピタキシャルウェーハ)を作る。[11]

  • 信越化学工業

    半導体用のシリコンウェーハ、フォトレジスト、マスクブランクスを作る。[10]

露光の材料工程:前工程・リソグラフィ(塗布・露光・現像)

  • 東京応化工業

    EUV用やArF用などのフォトレジストを作る。郡山工場に新しい製造棟を建てた。[12][13]

マスクの材料工程:設計・フォトマスクの製造

  • HOYA

    半導体用のマスクブランクスを作る。[14]

エッチングと洗浄の薬品・ガス工程:前工程・エッチング

研磨と後工程の材料工程:前工程・CMP(平坦化)

掲載企業は工程ごとに証券コードの順です。掲載の基準は編集方針にあります。

論点と今後の注目点

発表元の見方

経済産業省は、日本の製造装置と材料の産業を、半導体のサプライチェーンの「チョークポイント」とし、今も世界で競争力を保っていると評価している[3]。そのうえで、経済安全保障推進法にもとづき、半導体の材料・部品と原料の供給を確保する計画を支援している。支援の条件には、10年以上の継続的な生産や、需給がひっ迫したときの対応などが含まれる[8]。

SEMIは、2025年の材料の市場が、中国と北米を中心に、欧州を除く主な地域で伸びたとしている[1]。

本サイトの見方

SemiCompassの見方です。投資の判断の材料ではありません。

1つ目の論点は、強みと依存が表裏の関係にあることである。日本の材料メーカーは、海外の工場に材料を供給している一方で、国内の材料の市場は小さく、2024年には縮んだ。材料を使う工場の多くが台湾、中国、韓国にあるため、これらの地域の政策や需要の変化が、日本の材料メーカーにそのまま響く。

2つ目の論点は、上流の原料の偏りである。日本の材料メーカーが力を持つのは、原料を高い純度に精製し、加工する段階である。たとえば、ステラケミファは、不純物を1ppt(1兆分の1)まで減らしたフッ化水素を作るとしている[16]。その原料の一部は、特定の国や地域から輸入している。経済産業省が原料を特定重要物資の対象に含めたのは、この段階の弱さを示している。中国のガリウム・ゲルマニウムの例のように、原料の輸出管理は、材料と半導体の供給に波及しうる。

3つ目の論点は、国内の生産能力の行方である。北海道千歳市のラピダスの工場のように、国内で新しい工場の立ち上げが進むと、国内で材料を使う量が増える[18]。東京応化工業の新しい製造棟のように、国内での増産の動きもある。国内の工場の稼働と、材料の国内の生産が、どこまで歩調を合わせるかが、次の注目点である。

このページは、公開資料にもとづいて関係する企業を整理したものです。特定の企業の株式の売買を勧めるものではありません。詳しくは免責事項をご覧ください。

出典

  1. 2025年の世界半導体材料市場、過去最高の732億ドルに到達(外部サイト)SEMI公表日:確認日:
  2. 24年の半導体材料市場は675億ドル 日本だけが市場縮小:SEMIが発表(外部サイト)EE Times Japan公表日:確認日:
  3. 半導体・デジタル産業戦略(外部サイト)経済産業省公表日:確認日:該当のページ:3〜4
  4. 経産省、韓国向け輸出管理の運用見直しを開始(外部サイト)日本貿易振興機構(ジェトロ)公表日:確認日:
  5. 西村経済産業大臣の閣議後記者会見の概要(2023年3月17日)(外部サイト)経済産業省公表日:確認日:
  6. 商務部、2種のレアメタル関連品目に輸出管理を実施、8月1日から(中国)(外部サイト)日本貿易振興機構(ジェトロ)公表日:確認日:
  7. レアアース関連品目など複数品目を輸出管理の対象に追加(中国)(外部サイト)日本貿易振興機構(ジェトロ)公表日:確認日:
  8. 半導体(経済安全保障推進法に基づく特定重要物資)(外部サイト)経済産業省確認日:
  9. 第5回 半導体・デジタル産業戦略検討会議 資料3(外部サイト)経済産業省公表日:確認日:該当のページ:4
  10. 有価証券報告書(2026年3月期)(外部サイト)信越化学工業公表日:確認日:
  11. 有価証券報告書(2025年12月期)(外部サイト)SUMCO公表日:確認日:
  12. 有価証券報告書(2025年12月期)(外部サイト)東京応化工業公表日:確認日:
  13. 「世界最大級」フォトレジスト製造棟が完成 東京応化工業(外部サイト)EE Times Japan公表日:確認日:
  14. 有価証券報告書(2026年3月期)(外部サイト)HOYA公表日:確認日:
  15. 有価証券報告書(2025年12月期)(外部サイト)レゾナック・ホールディングス公表日:確認日:
  16. 2025年3月期 決算説明資料(外部サイト)ステラケミファ公表日:確認日:該当のページ:6、24〜27
  17. 半導体ガス増産、関電化が400億円投資で需要急増に備え(外部サイト)ニュースイッチ(日刊工業新聞)公表日:確認日:
  18. 大陽日酸 AI投資拡大で特殊ガス事業堅調 26年に向け新たな商材にチャレンジ(外部サイト)電波新聞公表日:確認日: